薬の神じゃない!

中国 2018
監督、脚本 ウェン・ムーイエ

白血病を患った病人たちのために、インドから安価なジェネリック医薬品を大規模に密輸した男を描いた社会派タッチのヒューマン・コメディ。

なんで男は法を破ってまで密輸に手を染めたのか?というと、中国では白血病の薬が異様に高価だったから、なんですね。

自分の住んでる家を売り飛ばしても生涯の薬代は賄えないほど、といえば、いかに高額か、理解してもらえるかと思います。

白血病=死の病だったわけですね、中国では。

だからといって主人公が博愛精神豊かな社会正義に燃える男、というわけではないんです。

白血病と無縁である健康な人間にとってはしょせん対岸の火事ですから。

白血病患者たちがが病院に身ぐるみ剥がされて死んでいくと知っててもですよ、自分の手を汚してまで助けようと思う人間なんて今どき宗教者にだって見当たらないわけで。

ましてや中国。

国民主権の民主主義国家と同じように人権が保証されているはずもなく。

軽い気持ちで法を犯せるような国じゃないわけですよ。

相当やばい、とわかっていながらも主人公はなぜ違法行為に乗り出したのか?これ、答えは簡単で実は金目当て。

主人公、自宅の家賃も払えないほど困窮してるんです。

早い話が転売ヤーをやれば儲かるんじゃね?という発想なわけです。

しかし、どこの国にも似たようなことを考える奴はいるもんだなあ、と。

決して率先してやろうとしてたわけじゃなく、周りに押し流されてついやってしまったケースではあるんですけどね、人の命がかかってるわけですから、なかなかの下衆だな、と言われれば否定はできない。

挙げ句には病院を回って客集めに精を出し、有志をつのって密売チームを結成してまうほどですから。

本作、実話ベースの作品で、2014年に実際起こった事件をもとに制作されてるらしいんですが、事実は小説より奇なりとはよく言ったもので、あのガチガチの共産国家でよくぞまあこんなことができたものだな、と驚かされたのは確かでして。

事件の経過を追っていくだけでやたら面白かったのは事実。

近くて遠い国、中国での犯罪ものなんてこれまで見たことがないだけに興味津々。

また監督が、重くなりすぎないよう、適度に笑いを散りばめてくるのが上手でして。

香港映画っぽいコミカルさではあるんですけどね、キャラクターを殺してないのがなんとも巧み。

見どころは中盤以降でしょうね。

さすがに派手にやりすぎて、男は警察からマークされてしまいます。

それでも男は密輸をやめようとしない。

そこには違法行為に手を染めた当初とは違った内面の変化があったりするんですけど。

エンディング、予想外に感動的です。

大げさかもしれませんが、天安門事件で躊躇なく武力行使に踏み切ったような国であってさえ、人民の声にならない声は大きなうねりとなって一党支配を揺るがす、と私は思った。

よくぞまあ当局の検閲にひっかからなかったものだな、と思いますね、この映画。

なぜか共産党のNo.2が本作を絶賛したらしいんですけど、うーむ、よくわからんわ、あの国の支配層が考えることは。

さて、事件を経て白血病の薬の値段、ジェネリック医薬品の扱いはどうなったか?

それは実際に映画を見て確かめていただくとして。

ひょっとすると共産党の検閲部門は、2021年現在の中国の変化を誇ってるのかもしれませんね。

人民の声を無視しない国だよ、みたいな。

けっ、嘘つけっ。

欧米の同系統の作品にも見劣りしない一作だと思いますね。

ほとんどの場合、中国資本が一口噛んでくるとハリウッド映画は駄目になりがちですが、中国人の製作者、監督が手掛けた映画でこれだけやれる、ってのはどういうことなんだ?と。

だからといって中国映画の未来は明るい、と言い切れないあたりがはがゆいところですけど。

見ごたえのある秀作、おすすめですね。

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