アメリカ 2000
監督、脚本 クリストファー・ノーラン
短期記憶が数分おきに消えてしまうという記憶障害を患った男を描いたサスペンス。
やはりですね、前向性健忘というあまり知られていない疾患を題材としたのが凄かったように思います。
普通はそこから話を広げられない、と思うんですよ。
なんせ何があって、自分はここにいて、何をしようとしているのか、肝心の本人が全くわかっていないわけですから。
ある一点から本人の中で時間が止まっちゃってるわけですよね。
特に難易度が高いと思うのは、そういう状態に陥るというのはどのような心もちで、どんな感情を抱くものなのか、実際に経験した人でないとわからない、という点。
想像するしかないわけです。
そういう意味では浮氷を渡る作業だったのでは、と思います。
正直、きわどいな、と思える部分もいくつかあった。
そううまく事が運ぶものだろうか、と疑問に思える箇所もちらほら。
ただ、ノーランはそんな懐疑の目線を「時間軸を分断、逆行、リピートさせる」という手段でうまくかわしたように思います。
主人公の混乱を観客に疑似体験させる効果をもし狙っていたのだとしたら、これは本当にうまかった。
なんか煙に巻かれちゃうんですよね。
断片を一枚の絵にするのにやっきになっちゃって。
それこそが記憶を失う、という状態の焦燥そのものか、とも思いますし。
なんともやるせないエンディングも二重丸。
それすら真実か否か、はっきりさせないのは小憎らしい、と思いましたが。
記憶できない、という事は、ひょっとして「永遠を手に入れた」ということと同義なのか、なんて私は考え込んでしまいましたね。
集中して見ないとすぐに筋がわからなくなっちゃうので、気楽に楽しむ、ってわけにはなかなかいかない作品ではありますが、突飛なアイディアをこう言う形で映像化した監督の独創力を私は評価したいと思います。
並の映画じゃない事だけは確か。