アメリカ/ギリシャ 2016
監督、脚本 ジェフ・ニコルズ
人を超えた謎の力を持つ少年を国家機関や新興宗教団体の手から守るべく、逃走の旅に出るその父親と仲間の姿を追ったSFサスペンス。
とりあえず前半の緊張感は凄まじかったように思います。
もうね、なにが起こってるのか全然わからないんですよ。
「牧場」と呼ばれる怪しげな団体に警察が突然ガサ入れをしたかと思えば、別の場面では一切の光を閉ざした部屋でゴーグルをつけた少年に父親が「そろそろ行くぞ」と声をかけ、闇夜の逃避行へと誘う。
さらには、牧場が経典とする数字が国家機密を暗号化したものだとわかったかと思えば、ゴーグルをはずした少年の目が光りだし、その光がこの世あらざるものを現出しているようだ、と匂わせる描写があったりする。
挙句に核反応を探知する軍事衛星が少年を探知し、それを察した少年が軍事衛星を地上に墜落させたりする。
少年はいったい何者なのか。
彼の存在とはなんなのか。
その謎かけ、想像力を刺激しまくる断片的なピースの散りばめ方は近年のSF作品の中でも屈指の出来だったように思いますね。
また監督はそれを「親子の絆を描くこと」を基底としてすべて演出していくんです。
ま、こんな状況だったら、どう考えても普通は子供抱えて病院へまっしぐら、だと思うんですよ。
でも父親は、常軌を逸していようがただひたすら子供を信じて、彼のしたいことを無条件で手助けしてやろうとする。
これに胸が熱くならないはずもなく。
けっして狂気ではないんだ、との証明に仲間であるルーカスの言動を「常識的規範」として描いてるのがまた巧い。
それがあるから、・・すべてを踏まえた上での行動なんだ、と観客も納得ができる。
バランスがおかしくならない配慮があるんですよね。
役者陣がみんなやたら演技巧者なのも作品のレベルを底上げしているように思います。
父親役のマイケル・シャノンもさることながら、久しぶりに見たキルステン・ダンストがこれまた滅法やたらに上手。
こんなにいい女優さんだったか?と目を疑う。
ラストシーンの幻覚的風景もインパクト充分。
「重なっている」としたのが素晴らしい発想だったように私は思いますね。
ただですね、じゃあこの作品、万人におすすめか、というと二の足を踏む点もちょっとあったりはしまして。
オチへの誘導の仕方にもう少し多様な可能性を示唆する試みがあっても良かったんじゃないか、と思うのと、オチそのものがあまりに観客へすべてをゆだねすぎ、という批難は多分あると思うんです。
スッキリしない、わけがわからん、と言う人もきっと一定数でてくるだろう、と見当がつく。
テンポよくスリリングに見せる、というよりは重厚な人間ドラマ風のタッチが眠い、と言う人もきっと居るでしょう。
そのあたりが国内未公開の理由でしょうね、多分。
でもね、私はこの作品の、21世紀の新しいSFを作ろうとする意欲、監督の確かな演出力を高く評価したいですね。
余談ですが監督が影響を受けた、と語ってるのはカーペンターのスターマンらしいです。
なるほど納得。
あそこからこう言う形に飛躍させた、というだけでもたいしたものだ、と思うんですが、さて、どうでしょうか。