アメリカ 1995
監督 テリー・ギリアム
脚本 デヴィッド・ピープルズ、ジャネット、ピープルズ
謎のウィルスのせいで人類の99%が絶滅した未来からやってきた男が、何度も過去と現在をタイムスリップしながら、その原因を探ろうと悪戦苦闘するスリラー仕立ての時間SF。
一般的にはギリアムの失敗作、と言われてますが、どうしてどうしてこれがなかなかおもしろい。
SFに慣れていない人はわかりにくい部分もあるかもしれませんが、私はまずこの作品のルールとして「過去は改変できない」と設定されているのに感心しましたね。
つまり主人公の行動は、未来世界におけるさらなる悲劇を食い止めるためのものでしかなく、舞台となっている過去世界に一切の救いは存在しない、と最初から高らかに宣言されているわけです。
そう考えて見てみると、主人公ジェイムス・コールとマデリーンの逃避行もまるで色合いを変えてくるように私は思うんです。
つまり、この作品が向かったエンディングとは、どう死すべきか、を描いた死生観のロマンスである、と解釈できるように思うんですね。
印象的なのは中盤、ジェイムスが、俺はあんたの言うように病気なんだ、未来世界なんて幻覚なんだ、どうか俺を治療してくれ、とマデリーンにすがるシーン。
もしそうだったらどんなにいいか、と言外に潜ませた激情の吐露に私は胸が熱くなりました。
未来世界を構築するギリアムの美術感覚も変わらぬ独特さで見事の一言。
特にビニールで覆われたタイムマシーンのデザインはちょっと度肝をぬかれましたね。
ブルース・ウィリスのくたびれた演技、ブラッド・ピットの狂った演技も良し。
未来世界を牛耳る変な科学者どものキャラも毒と笑いにまみれてて思わずニヤリ。
そしてすべてが集約するラストシーン、ループする時間の輪をその瞳に映すかのように少年を見つめるマデリーンの表情がなんとも言えず切ないです。
苦く、もの悲しい作品ですが、ギリアムならではのシニカルさが光る一作だと思います。
あっと言う間の130分。
実はターミネーターと物語の骨格は似ているのだけれど、ギリアムがやればこうも違う作品になるのか、と。
見比べてみるのも一興かと思います。
私は大好きですね。