フランス/ドイツ/イギリス 2010
監督 ロマン・ポランスキー
原作 ロバート・ハリス

いったいどうしたんだポランスキー、って言いたくなるほどここ数年の作品、全部おもしろくてファンを続けてきてつくづく良かった、と何度目かの溜飲を下げた一作。
今のところ戦場のピアニストからハズレなし。
これこそが円熟の極みか。
えー、それは先走って冒頭から書かなくてもいいか。
元英国大統領の自叙伝を書くことになったゴーストライターがはからずも知った事実に翻弄され、国家規模の陰謀に巻き込まれていくサスペンスなんですが、128分の長尺の作品ながら最初から最後まで一切緊張感がとぎれることなし。
シナリオ構成の見事さもさることながら、テンポのよさに私は感服。
戦場のピアニストでも感じたことなんですが、あそこからポランスキーはだらだらと長回しすることを一切やめましたね。
むしろ、で、それから?と観客が前に乗り出しそうになるところでぶつん、と切って次のシーンへ移行する。
つまり、引きが異様にうまい。
何度も針に食いついた我々をあえて物語世界に回遊したまま放置し、最後にぶっこ抜く、とでもいいますか。
掌に載せる技が熟達しすぎ。
それでいて決して難解ではない。
ひとつでも見逃すと煙に巻かれてしまうような不親切さはなく、丁寧に積み上げられていったシーンの数々がごく自然に終盤、恐るべき説得力を見せつけるんですね。
あえて写すべきものを写さなかった、やるせなさあふるるラストシーンも見事。
島の美しい情景に、どこか初期の秀作袋小路を思い出したりもしました。
いやこりゃ傑作でしょう。
むしろ地味、といわれてしまいそうな映像なのにここまでおもしろい、ということに私は感銘を受けました。