アメリカ 2014
監督 クリント・イーストウッド
原作 クリス・カイル

アメリカでは戦争映画の興行成績をぬりかえたほど大ヒットした作品ですが、それってやっぱり、アメリカという国の現在が今どうなっているのか、その世情ゆえの出来事なのでは、と私は思ったりしました。
実際にネイビーシールーズで活躍したクリス・カイルの回顧録を元に制作された作品らしいんですが、現実をそのまま描くことがエキサイトメントなのか?というと決してそうではないわけで。
映画を製作中にクリス・カイルが凶弾に倒れて帰らぬ人となる、といった衝撃的なニュースもあり、まるで現実がなにかを後押ししているような共時性に驚かされたりもするんですが、作品そのものにその事件がなにか影響をあたえているか、というと、それはやっぱりノーなんですよね。
これは人間味とか、そういう話ではなくて。
描かれているのは正義と信じてイラクでテロリストをスナイプし続けた1人の兵士の心の痛みです。
彼は戦争に何を見たのか、戦争の何が彼の心を壊してしまったのか、それと本人の突然の死に相互関係はない。
リアルにリンクするかのように付け足されたエンディングは、実は全く無関係の降って湧いた顛末でしかない。
さらには、事実に忠実にあろうとしたせいか、それとも関係者に配慮したのか、主人公が何故4度の派兵で軍を除隊したのか、なにがそこまで彼を蝕んでしまったのか、観客に痛切に伝わるエピソードや演出が全くないんですね。
本国で、本作が戦争礼賛だ、と揶揄された事は全く的外れながら、そもそもがドラマ作りの至らなさゆえ誤解を招いているような気もしなくはありません。
テーマが沈痛なだけに、あからさまに批判するのも心苦しいものがあるのですが、これが本当にやりたかったことなら、本作はクリス・カイルのドキュメンタリーにすべきだった、と私は思います。
数々の名作をものにしてきたイーストウッドらしからぬ作品、という印象を受けました。
酷なことを書いているのかもしれませんが、テーマが戦争であるならなおのこと映像作品としてさらにもう一歩踏み込んで欲しかった。
現実をそのまま描いたのでは伝えきれないことを、時にはよりディフォルメ、カリカチュアライズするのも映画の役割かと思います。
期待していただけに残念。