2003年初出 カネコアツシ
エンターブレインビームコミックス 全11巻

新興住宅地そいるニュータウンにて発生した一家失踪事件に端を発する、不可解な出来事の数々を描いたサイコサスペンス。
えー、適切な形容が思い浮かばなかったので、便宜上サイコサスペンスと書きましたが、もうこれ、どっちかと言うとオカルトとかSFに近接する内容、と言って良いかもしれません。
物語の様式は間違いなくミステリで、サスペンスなんです。
謎が謎を呼ぶ展開は漫画には似つかわしくないと思えるほど本格的で手慣れた印象を与えるものでしたし、事件にまつわる不穏さ、忌まわしさの演出も一級品、初読時、すげえ漫画家が出てきた、と興奮したほどでして。
ただね、この作品、風呂敷の広げ方がいささか度を越してるんですよね。
「一家失踪」まではまだいいんですけど、失踪した一家の娘の部屋に「塩の山」ができてて、しかもそれが「地球の物質ではない」、さらには同時刻、学校の校庭に同様の「塩の山」が出現し、その頂上にはなぜか失踪した一家の娘が飼っていた「ハムスターの心臓がのっていた」・・・って、いやいやあのね、どう考えても現実的で整合性のある謎解き無理やん、と私は思ったわけですよ。
こんなの京極夏彦でも目線そらすわ、って。
その後も物語はひたすら暴走。
そいるニュータウンの各家庭に植えられていた花が片っ端から奇形化するわ、ミステリーサークルは出現するわ、かつてのそいる村で狼藉の限りを尽くした連続殺人鬼が時空を超えて再び現れるわ、でもうやりたい放題。
ね、オカルトっつーかSFでしょ?
5巻ぐらいまで読んだ段階で私は悟るわけです。
ああ、これはもう絶対に「まさかそんな真相が隠されていたなんて!」みたいな展開にはならんだろうな、と。
最終巻まで読んでも多分、モヤモヤが残るんだろうな、って。
でまあ、その予想はおよその正鵠を射ていたわけなんですけど。
いや、作者のやりたかった事はわかるんです。
「異物」と「異物を排除しようとする働き」の拮抗に振り回される世界の断面を描きたかったんでしょう、きっと。
読んでてね、これはもう量子物理学にさえ首突っ込もうとしてるのか、とたじろいだ場面もありましたし。
でもね、やっぱり広げた風呂敷をキレイにたためてはいないように私は感じるんですね。
ああ、そういうことだったのか、と納得するシーンはあります、ありますが、それをすべての原因と紐づけてしまうにはあまりにプロセスがブラックボックス過ぎて。
実はこうで、って結果だけ提示されてもね、へえ・・・としか反応のしようがなく。
うーん、評価の難しい漫画だなあ、と。
ま、エンディングは悪くなかったと思います。
この時代に、いうなれば別の世界線を顛末とした着地は目新しかったのでは、という気がします。
とりあえず、カネコアツシの漫画家としての力量が高すぎるのが良くないですね。
絶対にスカッとしない、とわかってても普通に面白いから続きを読んでしまう。
でまあ、本作に囚われた時の感覚のまま私は今もずっとカネコアツシを読み続けているわけですけど、その感想はまた別のページにて。
SOILに関しては、よくわかんなくてもいいという人、感覚的に納得できる人向き、ということであんまり強くおすすめはしませんが、未だ全11冊を処分できない、というのが、まあすべてかな。