嵐の中で

スペイン 2018
監督 オリオル・パウロ
脚本 オリオル・パウロ、ララ・センディム

25年前に事故で死んだ少年を救ってしまったがために、自分の娘を失った母親が、なんとか娘を取り戻そうと苦心するSFサスペンス。

2022年現在NETFLIXでしか見れない映画ですが、スペイン本国では普通に劇場公開されていて、ソフト化もされているよう。

日本には入ってこなかったということですね。

こういうケースがあるからNETFLIXやめられないんだよなあ、チョイスが心憎いんだよ、だってオリオル・パウロだもん(実はファンな人は多いはず)。

それはさておき、あらすじの補足なんですが、なぜ25年前に死んだ少年を主人公は救うことが出来たのか?って話なんですけど「時空間を超えたテレビ電話を偶然にも発見したから」なんですね。

作中では、古いブラウン管テレビが未知の働きで25年前と現在をつないでしまった、という想定なんですが、主人公は、少年が亡くなってしまう日をあらかじめ知ってたんで「今日は絶対に外に出ないで!」と懇願するわけです。

結果、無事に少年は生き残ったものの、過去に干渉したことによって現在が改変されてしまうんですね。

いわゆるタイムパラドックス。

気がつきゃ居たはずの娘がいないことになってるわ、旦那は別の女と結婚してるわ、職場での立場が変わってるわで、もうてんやわんや(死語)。

果たして主人公はどうにかして娘を取り戻すこと、しいてはかつて自分を取り巻いていた環境を記憶どおりに復元することができるのか?が物語の主筋。

はっきりいって前半は既視感強いです。

なんだかもう80年代のハリウッド映画でも見ているかのようで。

こんな感じで時間を題材にしたSFファンタジー、大量にあったなあ・・・みたいな。

古いテレビを小道具にする着想もスピルバーグやゼメキスみたいですし。

また物語の文法というか作法がほんとアメリカ映画的でね。

さすがのオリオル・パウロも今回は駄目か、だからNETFLIXなのか、と最初は思った。

だってどう考えても感動オチにしか誘導できない感じだったんで。

そしたら、だ。

いや、わかってはいたんですよ。

どう考えてもこの人物がキーマンに違いない、と早い段階で目星はついてた。

で、その見当識は外れてなかったんですけど、真相に至るまでのミスリードの仕方が恐ろしくテクニカルというか巧妙というか。

どう考えてもこいつしかいないんだけどなあ、おかしいなあ、と何度も首を傾げたくなるほどに、劇中における渦中のキーマンが、無関係であるような素振り、言質を繰り返すんです。

最終的には、あ、やっぱり関係なかったんだ、と納得せざるをえない状況にまで観客は引きずられる。

もうほんとに最後の最後ですよ、えへへ、やっぱりキーマンは私でしたあ、と来るんだから。

どこの熟達な詐欺師なんだ、オリオル・パウロと。

明らかにこいつが怪しいと思わせておいて、それを頭から念入りに拒絶することで煙に巻こうとするミステリは久々に遭遇しましたね。

また、素晴らしかったのは、キーマンが主人公を欺こうとしていた理由がなんとも切なく、けなげであったこと。

理屈からいえば、そんなの可能な訳がないんです。

だけど、そうせざるをえないキーマンの気持ちは痛いほどよくわかる。

この、最後に待ち受けるドラマ性はいったいなんなんだ、と。

終わってみれば、収まるべき鞘にすべてはおさまったというのに、どこか一抹の寂しさが残る。

お見事。

時間をテーマにしなけれりゃ描けなかったであろう作劇に脱帽です。

NETFLIXやめなくてよかった、とつくづく思った。

これから見ようと思う人は、どうか前半で投げ出さないで、とだけ伝えたいですね。

ほんとこの人は期待を裏切らんわ、おすすめですね。

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