アメリカ/韓国 2017
監督 ポン・ジュノ
脚本 ポン・ジュノ、ジョン・ロンソン
食肉用に開発された新種のスーパーピッグを巡る、畜産農家の少女と企業のいざこざを描いたブラックなコメディ。
いや、ポン・ジュノ、すごいところに手をつっこんできたな、と。
これ、ありえない話じゃないですもんね。
天候不順や人口増加がまねく食糧危機は以前から危惧されてますから。
それをクリアするために、もっと簡易にコストをかけず食肉を生産する方法を、今現在計画してる連中は間違いなくいると思う。
問題は遺伝子操作をどうクリアするか、なんですよね。
消費者を欺くための手は法整備を含めてあれこれ画策されてますが、実際にこの映画のような手法でもって、マイナスイメージをプラスに変えるやり方がまるで現実的でないとは言い切れないように私は思うんですよ。
特にアメリカ、作中で企業側の仕掛けるコマーシャリズムというかイベント方式って、かなり好きそうですし。
浮き彫りになるのは「我々はどのようなプロセスを経て肉を口にしているのか?」ということ。
私は食肉用のブロイラーがどういう環境で育ってるのか知ってるんで、それほど大きなショックはありませんでしたが、知らない人がこれを見たらショッキングだったでしょうね。
また監督がね、姑息なんですよ。
食肉用に育てられたスーパーピッグ、オクジャをとんでもなく愛らしく撮るんです。
カバとのあいのこみたいな感じなんですけどね、目なんかもう象のような慈愛に満ちてて。
CGだと思うんですが、これ相当こだわって作ってると思いますね。
育て主である少女とオクジャが戯れるシーンなんて、ほとんどジブリですよ。
私はトトロとメイが一緒に遊んでる姿を重ねたりもした。
これ見てたら「えーさて、それじゃあ充分育ったことですし、そろそろオクジャ食肉用に解体しましょうか」って言われて、はいどうぞ、と言える観客はほぼ居ないと思う。
完全に感情論なんですけど、お前は鬼か!ってなっちゃいますよ、そりゃ。
そこで我々は気づかされるわけです。
オクジャに着目したからこそ可哀想だという感情が芽生えもしたが、私達が普段食ってるハンバーガーや焼き肉も、すべてオクジャと同等に命をいただいてるんだよ?と。
いやーもう肉食えねえ。
明日からヴィーガンになるしかねえ。
なんだこの食育映画?!って感じですよ。
ただ私が少し残念だったのは、問題を先送りにして心優しい場所に物語が着地してしまったことでしょうか。
生きるために他の命を犠牲にする人間の業を、できうるなら最後につきつけて欲しかった、と思いますね。
もし実際にそれをやったら、とんでもないトラウマ映画になっただろうけど。
諸悪の根は食肉事業をとことんまで産業化することにあるんであって。
一朝一夕に答えが出ないことだとは思うんですが、もう少し踏み込んでも良かったのでは、という気がします。
問題提起の役割を果たしたことは確かなんで、それをどう捉えるかで評価は変わってくるでしょうね。
私はこの題材をエンターティメント風に仕立てあげた監督の手腕を採点したいですね。
しかしポン・ジュノ、うまくなったなあ。
いつのまにか世界水準で映画作れるレベルに達してて嬉しい限り。
韓国映画界のトップランナーたる監督の一作なのは間違いないですね。