2004年初出 宮下裕樹
小学館サンデーGXコミックス 全12巻
対犯罪用汎用兵器部隊、通称ギンセイのプロトタイプとして作られた自立型ロボット警官、モンジュの活躍を描いたSFコメディ。
ああ、これは細野不二彦の系譜だ、と思いましたね。
「現実世界に異物を放り込んでドタバタ」ってのはもちろん藤子不二雄が元祖なわけですが、荒唐無稽なのに妙にディテールにこだわってたり、胸をうつ心優しいドラマが随所に盛り込まれてたりするのがなんだか似てるなあ、と。
細野先生御本人がもうこういうタイプの漫画描いてないというのもあってか、第一話からやたら引き込まれる自分が居たりしましたね。
今となっては古いタイプの路線なのかもしれませんが、かつての細野少年漫画ファンとしちゃあどうにも食指をそそられて仕方がない。
またキャラ作りがうまいんですよ、宮下裕樹。
モンジュのぶきっちょで小心者な性格設定もいいんですが、脇を固めるちゃらんぽらんな山岸巡査、メカオタクでツンデレで理系女子の神谷シノが実に魅力的で。
この三者が田舎町の派出所で大騒ぎしてるのを見てるだけでなんだか楽しい。
笑いのセンス、着想も卓越してると言っていいでしょうね。
モンジュがネカマを装ってmixiやりだす回なんて、はらわたネジ切れるほど爆笑しましたし。
で、この作品がすごかったのはコメディに終始するだけでなく、人あらざる存在として命をもつモンジュの悲哀にも焦点をあてていることにありまして。
シリーズ終盤の展開なんて、とんでもないです。
序盤のお笑いはどこへ行ったの?と戸惑ってしまうほどストーリーはどんどんシリアスに。
警察組織の都合や体面にふりまわされ、望まぬ任務を強いられるモンジュの有様にページをめくる手は汗ばむばかり。
そして迎えたクライマックス。
もうね、年甲斐もなく私は号泣でしたね。
もし日本の漫画界において、ロボットをモチーフとした作品の先駆者であり頂点が手塚治虫なのだとしたら、この作品は手塚漫画にも肩を並べる、と私は思いましたね。
最後の最後にラブロマンスを絡めてくる手管も舌を巻くほどにうまい。
文句なし、傑作だと思います。
笑えて泣けて、ロボットが人を思いやる気持ちに感動する、SF人情喜劇とでも呼びたくなる大作ですね。
・・・ただですね。
2018年現在、唯一きわどいな、と思えるのはネーミングでして。
東日本大震災を経験した日本において、モンジュっておいそれと笑えない、ギャグにしにくい状況下にあると思うんですよ。
放射能ネタなんかもちょくちょくあるんですけど、これ被災した人たちからしたら噴飯ものでしょうしね。
誰もが「まさか・・・」と思う原発事故によって、どこか扱いにくい、どう対峙していいかわからない漫画になってしまった側面は否めないようにも思います。
そこはほんと不幸だった、としか言いようがない。
多分、作者自身も「やらかしてしまった・・・」と思ってるんじゃないかという気がします。
時代の劇的な変化に、立ち位置を改めざるを得なくなったものの、すでに完結しちゃってるもんだから今更どうしようもない、というのがね・・・。
大傑作なのは間違いないんです。
願わくば、事故以前の空気を思い起こしてこの作品に触れて欲しいですね。
なんとなく腫れ物扱いになっちゃうのはあまりにももったいなさすぎる、と思う次第です。