フランス 2010
監督 フレッド・カヴァイエ
脚本 フレッド・カヴァイエ、ギョーム・ルマン
さらわれた奥さんを取り戻すために、警察と悪人どもを向こうに回して孤立無縁な戦いを強いられる看護士の男を描いたクライム・サスペンス。
監督の劇場デビュー作であるラスト3デイズと微妙にネタがかぶってるような気もしますが、もう、そんなことどうでもいいってぐらいおもしろくて最後まで目が釘付け。
2作目にしてこの手のジャンルを撮らせたら敵なし、ってのを証明しましたね、カヴァイエ監督は。
2転3転するシナリオの出来映えも素晴らしいんですが、やっぱりなにがうまいって、平凡極まりない中年のおっさんに強く共感できるよう観客を誘導してること。
行動原理は実にシンプルなんです。
ただ奥さんを救いたい。
そのためなら法を犯すことも辞さない、って、 それをね、驚異的身体能力や知られざるA級諜報員な過去を持ち出したりせずに、素人の七転八倒な悪あがきで最後まで描ききるんですよね。
そこに何が生まれるかというとやっぱり説得力だろうと私は思うんです。
いかにも作り事、と見る側を冷めさせる隙を与えない、とでもいいますか。
浮き彫りになるのは妻への強い愛情。
これに胸うたれない奴がいるのか、と言う話で。
そこまでやるか?とつっこむ人も中にはいるかと思いますが、そこはね、 あえてシニカルにならず素直にのせられちゃっていいと思うんですよ。
誰も自宅でただ警察任せなままうじうじと悩む、しょぼくれたオッサンの困り顔なんて延々見たくはないわけですし。
危なっかしさが孕むスリルといい、わかりやすさといい、これだけの出来の作品を、これはないわ、と斜にかまえるのはあまりにもったいない。
当の犯人といつしか呉越同舟となる展開もお見事の一言。
想いの深さに心揺さぶられ、手に汗握る傑作だと思います。