ドイツ 2018
監督 アンドレアス・ドレーゼン
脚本 ライラ・シュティーラー
70年代後期~90年代にかけて活動した実在する東ドイツのミュージシャンであり、シュタージ(秘密警察)のスパイでもあった、ゲアハルト・グンダーマンの生涯を描いた社会派ドラマ。
しかしまあ、本当にこんな人がいたのか?!ってのが私の場合、何よりも驚きでしたね。
東ドイツという共産国家に全く不案内であること、その歴史や文化を全く学んでこなかった私の浅学ぶりが理解を遠ざけてるのは重々承知してるんですけど、ミュージシャンにすらそういう役割を振る国家の手口には心胆寒からしめるものがありましたね。
ま、スパイと言っても大したことはやってないんです。
戦前の日本における隣組制度みたいなもの。
いわゆる相互監視に近い。
主な役割は簡単に言っちゃうなら「告げ口」。
グンダーマンはミュージシャンゆえ、コンサートで西ドイツにも行き来してたんで、情報収集に役立つ、と軍部は考えたんでしょうな。
で、グンダーマン、牧歌的なフォーク・ロックをステージで披露して夢や希望を訴えつつも、裏ではシュタージへの報告に余念がない、というとんでもないやつでして。
不思議だったのは、そんな二律背反する生き方を、本人はさほど「おかしい」とは思ってないこと。
主人公、昼間は石炭採掘現場で働いてるんですけど、労働者の立場改善を求めて役人に噛み付く熱血漢だったりするんですよ。
いわゆる反骨。
政治のありかたにあれこれ不満を持ってたりする。
なのにプライベートでは国家の犬。
ぶっちゃけ、わけがわからないですよね。
なんだろ、シュタージが政治を変えるとでも思ってたんだろうか?
このあたり、全く説明がない上、内面を描写することもないんで、門外漢にはほんとうにわかりづらくて。
なぜ熱血漢が人々から忌み嫌われるシュタージの走狗になってしまうのか?という、ドラマの根幹をなすはずの本人の主義、思想が理解できないものだから二重人格のようにすら見えてきて。
労働者階級の承認欲求だ、と言ってる人もいますが、それならそれで、そこを悟らせるように演出しなきゃ駄目でしょうが、と。
なんかね、数奇な人生を送った人を描いてる割にはものすごく進行が淡々としてるんですよね。
わかるでしょ、当時のドイツを知ってる人なら、ということなのかもしれませんが、ドキュメンタリーじゃないんだから、そこはもう少し丁寧に掘り下げてもいいのでは、と思ったり。
映画の熱量は最後まで変わることはありません。
東西ドイツ統一後、グンダーマンはスパイであったことを告白するんですが、そんなクライマックスというべきシーンですら場が熱を帯びることはなくて。
こういう人もいたんですよ、で終わっちゃってるんですよね。
こんなショッキングな題材を扱いながら、ここまで盛り上がらないことがあるのか?という。
ヨーロッパの監督は割とこういう作風の人が多いですけど、さすがにね、NHKじゃないんだからもう少しやれることもあったのでは、と訝しんでしまったりもして。
まあ、変にベタついた感動乞食な作品になるよりはいいのかもしれませんが、私のような遠い島国住む情弱な人間にとってはなにかと「伝わりづらい」一作でしたね。
手にいれられるものならアルバム聞いてみたいな、と思ったりはしたんですが、それ以上の感銘は特に受けなかった時点で「映画を見た」というよりは、単に「事実の羅列を映像で見た」だけのような気がしなくもない、ってのが正直な感想だったりします。