アメリカ 1994
監督 アレックス・プロヤス
原作 ジェームズ・オバー
原作はアメコミ。
今なおカルト的人気を誇る作品で、プロヤス監督の名を世に知らしめた出世作でもあります。
次作ダークシティにつながる仄暗い映像美や、当時シーンを席巻してたグランジ、オルタナティヴ系のロックを散りばめた攻撃的サウンドアプローチ等、時代に先鞭をつけようとする瑞々しさが魅力かとは思いますが、やはりこの映画を語る上で絶対なのは主演をつとめたブランドン・リーの存在感でしょうね。
ま、正直いうとシナリオはなんてことない、と思うんですよ。
マフィアの地上げに巻き込まれて非遇にも殺されてしまったカップルの復讐劇を、謎のカラスがその超常の力でもって手助けする内容なんですが、格別目新しいものがあるわけでも心揺さぶる力強いドラマがあるわけでもない。
ありがち、といえばありがちですし、何故にカラスが唐突に死者を蘇らせたりするのか、説得力もなければもっともらしさも見当たらない状態なんで、つっこみどころは序盤から満載です。
なんか雰囲気と根拠のないイマジネーションだけでのりきってるダークファンタジー、って感じなんですよね。
主役のクロウが白塗りメイクを自ら施すのもなんで?って、感じですし。
ところが、です。
それらの至らなさや整合性のなさもですね、ブランドン演じるクロウの立ち居振る舞いを見てるとなんか「別にいいか」と、だんだん許せてきてしまうんですよね。
けっして美男子、と言うわけではないと思うんです、ブランドン。
どっちかというと面長で馬面系ですし。
ましてや偉大なる父、ブルース・リーのように華麗な体術をカメラの前で披露するわけでもない。
でも妙に色気があるんですよね、ブランドン。
これは演技力の高さ、役に入り込むことのうまさと言い換えてもいいかもしれません。
彼の一挙手一投足が凡俗な御伽噺をどこか蠱惑的に見せている、とでも言うか。
やっぱりこれってスター性だと思うんですよね。
ブランドンの存在がこの作品の完成度を一段階も二段階も押し上げていることは間違いない。
つくづく亡くなられたのが惜しまれますね。
順調にキャリアを積んでいたらアクションスターの枠組みにとらわれない一流の俳優になっていたかも、と悔やまれます。
ひょっとしたら父すらも超えていたかもしれない。
ブランドンが撮影途上で事故死したことで取り沙汰されがちな一作ですが、アクションに固執しない彼の魅力が開花した一作としても注目に値する作品ではないか、と私は思います。