スペイン 1998
監督、脚本 ペドロ・アルモドバル
シングルマザーとして息子のために生きてきた女が、自分の過去をふり返る日々を経て、再び母として歩みだすまでを描いた再生の物語。
主に焦点が当てられているのはマイノリティとして社会の片隅でささやかに生きる人たち。
それはオカマであったり、ヤク中であったり。
そんな人たちとの邂逅、再会を経て、主人公マヌエラの胸に去来したものはなんだったのか、はからずも彼女は何を得たのか、それがみずみずしくも力強い筆致で描かれてます。
私がいいな、と思ったのは監督が一切を否定していないこと。
えてしてこのタイプの作品って、弱者に対する侮蔑であったり、苦難であったりがネガティブに描写されがちですが、その手の息苦しさをほとんど感じないシナリオ、演出になってるんですね。
全部受け止めて消化しきってる感覚があるとでもいうか。
もちろんテーマは決して軽くないです。
生と死が坩堝となって渦巻いてる内容です。
でも根底に、すべてを等しく慈しむ目線があるから、どの登場人物達も溌剌と人生を謳歌しているように見えるんですね。
それぞれが抱える問題がそれなりに深刻なのにもかかわらず。
けれど、そういうものじゃないのか人生って、とどこか超然とした境地で俯瞰してるです、監督は。
それがなんだかひどく心地いい。
誰が言ったのか知りませんが、この作品を「人間賛歌」とは上手に表現したものだなあ、と思います。
色んな経験をつんで酸いも甘いも噛み分けた古老たる大監督が、悩める女たちに、大丈夫だよ、なにも心配はいらない、きっとなるようになる、と優しく語りかけているような作品でしたね。
また、有名な戯曲「欲望と言う名の電車」を劇中劇としてモチーフにしているのも印象深かったですね。
欲望と言う名の電車との相似性、結末の違いを慮れば、監督がなにを訴えたかったのか、如実に伝わってくるかも。
主演を務めるセシリア・ロスがおばちゃんなのにもかかわらず、共演のペネロペ・クルスより美しく見える、というのがなによりもこの映画の本領を物語っているかと思います。
若い人には伝わりにくい部分もあるかとは思うんですが、40代位の人たちにはひどく染みるものがあるんじゃないでしょうか。
素直にいいな、と思える一作でしたね。