シン・ゴジラ

日本 2016
監督 樋口真嗣
脚本 庵野秀明

シン・ゴジラ

今更ゴジラを題材に何が出来るというのだよ、とタカをくくってた部分はあったんですが、見始めるや否や予想を大きく覆され、食らいつくようにして見た120分、いやすまん、あなどってた、面白かったよ庵野、正直脱帽だ、参った。

なんかすまん。

なんで謝ってるんだ私。

まあその、やってることは1954年に発表されたファースト・ゴジラのリテイクであり、現代的焼き直しに過ぎない、と思うんです。

街を蹂躙し、放射能を撒き散らすその存在に国家はどう抗するのか、そこは安直に反戦、核廃絶につながるものではないですが、パニック映画、怪獣映画としての立ち位置は格別その枠組みを逸脱するものではなかった。

何が斬新だったのか、というとやはり手垢にまみれたゴジラというアイコンをどういう切り口、味付けで料理するのか、といった点でしょうね。

まず驚かされたのは恐ろしいスピードで矢継ぎ早に展開するあわただしいカット割り。

特に前半、もうどこの誰が何を言ってて何が起きてるのか、全然把握できないです。

登場する役者やモブの数も半端じゃない。

専門用語はバンバン飛び交うわ、場面はガンガン切り替わるわで、私は字幕スーパーを表示させることでやっとなんとかおぼろげな進行を理解した有様。

で、これが有事のあわただしさを生々しく印象付けるのと、臨場感の喚起に強く貢献してるんですよね。

そんなことまでいちいち拾わなくていいよ、と思えるようなことまでセリフにしてるのもちょっと感心でしたね。

業界でしか通用しないであろう数字の羅列みたいなのとか、意味不明のカタカナ用語とか。

でもそれが妙に信憑性を煽るんです。

いや本当のところはどうなのかわかりませんよ、そんなやり取りが実際に関係各所でなされているのかどうかはうかがい知ることはできませんし。

だけどね、これだけの内容を役者にしゃべらせようと思ったら相当な下調べなり取材なりが準備段階でなされてないと不可能、ってのは誰にだってわかる。

その基礎建築の周到さがね、荒唐無稽さをひどく現実的に色づけしてるんですよね。

そこから派生する敗戦国日本のポジショニング、対アメリカを懸案する安保条約への解釈も現実を踏まえた見事なシュミレーションだったと思います。

戦争映画かよこれ!と私は舌を巻きましたね。

ゴジラを描くことが、有事を仮想したポリティカルフィクションを成立させることと均衡を保ってるんです。

リアリズムへの希求心がもうほんと半端じゃない。

また、ゴジラそのものを徹底的に解剖しようとする姿勢にもSF好きとしちゃあ、たまらんものがありました。

なんせ体内に核融合炉を有する進化型完全生物ですよ、あなた。

そりゃ疑似科学といってしまえばそれまでですが、もっともらしさを紡ごうと苦心惨憺してるのがわかるし、なにより想像力を刺激するケレン味たっぷりの神秘性がある。

わくわくしないでいられようか、ってなもんです。

それでいてドラマ性をおろそかにしていないのも素晴らしい。

自分達の手で自分達の国を守ろうと一丸になってその身を危険にさらす人々の群像劇に、胸があつくならないとしたらそりゃもう嘘だとしか言いようがないわけで。

これを性善説に基づいたものであり、日本人に希望を持ちすぎな夢物語、と言う人もきっといるんでしょうけどね、そんなニヒリストな所感を抱かせないだけの現実味あふるる物語背景への気配りは充分すぎるほどあった、と私は思うんです。

そこは素直にのせられてもいいじゃないですか、と。

そりゃ稲田防衛大臣とか見てたらありえねえ、と思うのはわかりますけど。

まあ、つっこみどころが全くない、というわけではないとは思いますよ。

いかにもエヴァ直結な庵野印の演出がわずらわしいとか、石原さとみのキャラがギャグでしかないとか。

私の場合は樋口監督に、ここぞという場面での劇的な絵作りの才がないことに幾分トーンダウンしましたし。

さすがに特撮監督あがりなだけはあってゴジラを肉感的に描写するのは凄かった、と思うんですけどね、私が言ってるのはそれ以外のシーンで、人をじっくり撮るのがあんまりうまくないんですよね、この人。

けれどこれだけのものをこだわりぬいて用意されたら細かいことは全部許せてしまいますよね。

各キャラが妙に漫画的なのもアニメ出自と考えれば、納得できなくはないですし。

いやー邦画の底力を感じた一作でしたね。

ほぼ死に体だったゴジラを見事現代に蘇らせた傑作だと思います。

ディザスタームービーとしての一面をも持ち合わせていることを、私はさらに上乗せして評価したいですね。

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