イギリス 2017
監督 ジョー・ライト
脚本 アンソニー・マクカーテン

第二次世界大戦中にイギリスの首相となったウィンストン・チャーチルの、ドイツ侵攻に抵抗する27日間を描いた歴史もの。
さて、私は世界史の授業といえばほぼ意識を失ってまどろんでいた学生だったので、チャーチルがどのような政治家だったのか全く知らないし、彼の実績や評価もまるでわからないド阿呆なんですが、映画を見る限りではイギリスに於いて、誰もが知る名演説を残した首相として有名らしいですね。
史実がどれぐらい脚色されているのか、どの程度演出がなされているのかはわからないんですが、チャーチルという人物をこだわり抜いて描こうとしていることだけは見ていて伝わってきます。
アカデミーメイクアップ賞を受賞した特殊メイクもそうですが、なによりゲイリー・オールドマンのなりきりっぷりが凄まじい。
これ、言われなきゃゲイリー・オールドマンだなんてわからないですよ、マジで。
私なんてクレジットを確認しているのにもかかわらず、まだ少し疑ってたりしますもん。
そこまでしてチャーチルという政治家の人物像に迫ろうとした制作陣の意気込みはやはり評価されるべきですよね。
それに答えたオールドマンの役者としての力量もとんでもないわけですが。
で、肝心の内容なんですが、いささか臆面もなく被害者ヅラでイギリスの正当性ばかりを強調しすぎかな、という気もしなくはないんですが(イギリスも植民地政策を掲げて他国に侵攻してるわけですから)国家的危機におけるリーダーの苦悩のみに焦点を当てたと考えるなら実に見ごたえがあったように思います。
のぞまれて首相になった、というよりは、どちらかといえば消去法で嫌な役回りを引き受けさせられたチャーチルの煩悶は、いかんせん国民の命がかかってるだけに見てる側も自然と前のめりになってくる。
弁は立つが一風変わった人物であるチャーチルが、周りの抵抗勢力や和平という名のドイツへの従属を進めようとする閣僚たちとどう戦っていくか、焦燥感を煽りながら日数をカウントしていく手法は実に効果的だったように思います。
そこにはほぼ室内劇とは思えぬ緊張感があった。
また監督、見せ場づくりがうまいんですよ。
孤立無援のチャーチルに国王が会いに来る場面、地下鉄に乗って一般市民とチャーチルが会話を交わす場面等、絶対真相はこんな感じじゃなかったはず、と思いつつも、ぐっ、と心を鷲掴みにされちゃうドラマチックさがあるんですよね。
まあ、見る人によっては極右だ!なんだ!とあれこれ反駁されそうではありますが、私はこれ「たとえ手ひどく蹂躙されようとも譲れぬ誇り」を描いてる、と思った。
精神の気高さを問うているんですよね。
だからこそチャーチルの演説がいまだにイギリス国民に記憶されてるわけで。
どこかアメリカ映画的、といえばそうなのかもしれませんが、難局を単身戦い抜いた男の物語として、史実をなぞるだけに終わらない迫力があったことは確か。
自分の国を誇りに思えない人の多い敗戦国日本に生きる我々にとって、色んな見方ができる映画だと思います。
過去の人物に焦点を当てた単なる歴史映画、と思ってみてたら大きく印象を裏切られる一作でしょうね。
一見の価値あり。
余談ですがダンケルクの戦いはチャーチルの指示によって民間の船による救出作戦が行われたのだとか。
知らなかった。
クリストファー・ノーランのダンケルクを補完する意味でも見ておくと役立つかもしれません。