日本 2017
監督 三池崇史
原作 沙村広明
ま、原作をダイジェスト的に映像化してみました、って感じかな、と。
お読みなってる方はご存知かと思うんですが、そもそもですね、原作からして時代劇のリアリズムみたいなものは欠落してるんですよね、実はこの作品って。
原作者である沙村広明自身がそこに後から気づいて、初期設定のゆるさをカバーすべく、中盤以降の濃密なドラマ作り、枝葉末節の補完を心がけたおかげでヒット作に化けた漫画、というのが実状かと私は思うんです。
なので表層的にあらすじだけを追われてしまうとね、ストーリーそのものがスカスカになっちゃうんですよね。
この物語でいちばん重要なのは「誰がために復讐を完遂しようとするのか」「その先になにがあるのか」というテーマの掘り下げであって、それに伴う凛の心の変化を細やかに描くことに他ならないわけで。
そのあたりは見事にすっ飛ばしてくれたなあ、と。
もう、見ててなにも頭に入ってこないです。
ただ次から次へとキャラが登場してきて、ひたすらチャンバラやってるだけ。
ほとんど出演者顔見世興行状態。
誰が「無限の住人」の内容説明を2時間以上にもわたってやれと言ったか、という話であって。
主演のキムタクもやっぱりいつものキムタクのままでしたしね。
いや、すごく頑張ってた、とは思います。
映画が終わる寸前ぐらいには、ようやく万次役がキムタクでも悪くはないかな、と思えるぐらいには馴染んできてたんですが、やっぱりね、育ちの良さみたいなものがどうしても出ちゃってるんですよね。
暗い過去を持つ無法な100人斬りにはどうしたって見えない。
クライマックスの300人相手の殺陣シーンも、それなりに迫力はあったにせよ、るろうに剣心ほどではなかったですし。
まあ、あの作品は規格外すぎる、かもしれませんけどね。
あと、細かい話なんですけどね、二刀流をビシッと決めるのって、結構難しいんですよね。
かつて嵐寛寿朗に「日本でちゃんと殺陣ができるのは1に萬屋錦之介、2に若山富三郎、他はない」とまで言わしめた萬屋錦之介ですら二刀流は苦労した、って話ですから。
キムタク、刃先が揺れちゃってるんですよね。
構えもサマになってないし、殺気が伝わってこない。
萬屋錦之介の演じた宮本武蔵を一度見てみろ、何もかもが違うから!とあたしゃほんと力説したい。
唯一気を吐いてたのは凛役の杉咲花でしょうか。
よくまあこんな感情移入しにくいシナリオであそこまで豊かな演技ができたことだと思います。
評価できたのはそこぐらいですかね。
ただまあ、昨今の日本映画の大きな潮流ともいえる「そこそこネームバリューのある原作を、元々のファンに叩かれることなく無難に映画化する」という意味では三池監督はプロの仕事をやってのけてる、とは思いました。
終盤に多少の改変があったにせよ、きちんと原作を読み込んでいる形跡が伺えるんですよね。
監督に仕事の依頼がとぎれない理由、少しわかった気はしました。
なんの挑戦心も映画ならではの野心的な取り組みもない一作ですが、日本の商業映画としちゃあ及第点かも。
瞬間風速で勝負して消費前提、確実な採算がまずは第一、と考えるなら正解でしょうね。
それを楽しめるかどうかは見る人次第。