イギリス/アメリカ 2016
監督 アリエル・ヴロメン
脚本 ダグラス・クック、デヴィッド・ワイズバーグ

殺害されたCIA局員の記憶を移植された男の混乱が描かれたSFアクション。
最近じゃ似たようなプロットでセルフレスって映画がありましたよね。
ま、早い話が題材に新鮮味はない。
SFの世界じゃ昔からあるネタ、と言ってしまえばそれまで。
結局「記憶の転送」というアイディアをどういう形で物語に活かしていくかがこの場合、鍵になるのではと思うんですが、それもねえ、なんだかわかりやすい道筋を意外性無くたどってる有様でして。
先端技術を使った実験的施術だから、記憶を移す人間はいつ死んでもかまわない極悪な犯罪者にする、というところまではまだ良かったんですが、その後の、転送された記憶に影響されて犯罪者がだんだんいい人になってくる、という展開、ああやっぱりそうくるのね、としかいいようがない感じで。
やりたかった事はわかります。
人格に問題があるどうしようもない人間が、他人の記憶に触れることによって思いやりや愛を知る人間に生まれ変わるプロセスを劇的に描きたかったんでしょう。
その手の物語は嫌いじゃないです。
嫌いじゃないんですけど、やっぱり既視感をひっくり返すまでには至ってない。
なにかの模倣って印象が強いんですよね。
そもそもですね、大前提となる「記憶の移植」自体が具体的にどういうものなのか、いささか不明瞭な点がありまして。
単に映像を転写するだけだとするなら、それが人格にまで影響を及ぼすとは考えにくい。
しかも被験体の犯罪者、施術後に知らなかったフランス語をいきなりペラペラ喋りだしたりするんですよね。
それって、言語野の能力まで含まれることになるから、単に記憶の移植で片付く話じゃなくなってくるわけです。
感情や人格丸ごと転送されてるような描写が多いんですよね。
とかくルール作りがあいまいなんです。
つまるところ最初に何が起こったのか、それがはっきりしないから、なんだかのれないし、感情移入できない、という結果を招いてる。
主演の犯罪者をケビン・コスナーが演じる、というのもやや疑問。
だってケビン、もう62歳ですよ。
62歳で粗暴なワルを演じる、というのもどうかと思うんですが、最終的にはガル・ガドット相手に良き夫の代役を努めようとする・・・って、無理ありすぎですよね。
どうみてもケビンとガル、絵ヅラ的に親子だし。
ケビンの演技もなんだか冴えない。
深い葛藤や逡巡がその振る舞いや表情から伝わってこない。
素直に運命を受け入れちゃってるようにしか見えない。
それじゃあダメだろうと。
そこは監督の演出力不足なのかもしれませんけどね。
単なる粗暴な犯罪者がプロの工作員相手に七面六臂の大活躍をするシナリオもいただけない。
太刀打ちできないまでも一矢報いるぐらいでちょうどよかったし、それでこそクライマックスも盛り上がった、と思うんですが、徹頭徹尾アンチヒーロー視なんですよね。
ゲイリー・オールドマンやトミー・リー・ジョーンズまでひっぱり出しておきながらさっぱり内容がついていってない、というのが実状かと。
せめて主役を30代ぐらいの役者にしていたらまた違ってた、と思うんですが、うーん、後の祭りか。
なんかぱっとしない映画、その一言ですね。