フランス/ベルギー 2016
監督 レベッカ・ズロトヴスキ
脚本 レベッカ・ズロトヴスキ、ロバン・カンピヨ

霊と交流できると告白し、のちに一大心霊ブームを巻き起すアメリカのフォックス姉妹を題材とした実話もの。
調べた限りでは史実に忠実に映画化している、というわけではないようです。
実在のフォックス姉妹は1850年代に各界を巻き込んで多くの支持者を集めたのに対し、物語の舞台は1930年代のパリで姉妹はその日暮らしという設定ですし。
3人姉妹だったはずなのに、作中ではなぜか2人姉妹ですしね。
過去の人物をモデルとして全く新たなストーリーを紡いだ、というのが正解でしょうね。
詳しい方がフォックス姉妹と聞くと、すわ「ホラーか?」と早合点してしまいがちかと思いますが、本作の場合、ホラー色はほぼゼロで、どちらかというと不穏な時代に翻弄された姉妹を描いた人間ドラマと言った方がいいでしょう。
主要な登場人物は姉妹と、姉妹を主役に据えて映画を撮ろうと目論む壮年のプロデューサー。
心霊現象を映像におさめることができれば世界中がひっくり返る、とプロデューサーは考えてるわけですね。
そこに姉の思惑、妹の思惑が絡んで事態は複雑化していく。
とりあえず私がうまいな、と思ったのは3人の微妙な距離感の描き方ですかね。
好意なのか打算なのかよくわからない心の機微を、他者の入り込めぬ絆であるかのように思わせる作劇には高いスキルを感じました。
シーンとシーンをたわむことなくスピーディーにつないでいくお手並みもたいしたもの。
ぶっちゃけね、シナリオに大した山場もなけりゃ劇的な展開があるわけでもないんです。
なのに全く中だるみしない。
ズロトヴスキという監督について詳しくは知らないんですが、相当に腕のある人だな、と私は思った。
また、姉妹の異能力が本物であるのかどうかは棚上げなのかな?と思わせておいて、終盤の大事な場面でさりげなく種明かしするそつのなさも小憎らしいの一言で。
おそらく、平坦なドラマだ、とか、美人姉妹が戯れてるだけ、みたいな揶揄をする人はきっといるんでしょうけど、映画作品としてのレベルは相当高い、と私は感じましたね。
唯一、ひっかかったのは心象風景を描写する上でのイマジネーションが貧困なことと、軍靴の響きがまるで聞こえてこない狭い世界観で物語が展開してることですが、まあ、つつかなくとも良い重箱の隅でしょう。
未知なるものに翻弄される当事者と、その支持者の運命の変転を描いた一作としては及第点以上じゃないでしょうか。
私は割と好きですね。
余談ですが妹役のリリー=ローズ・デップがあまりにパパそっくりでびっくりしました。
半眼の冷めた表情なんてジョニー・デップが憑依してるのかと思った。
リリーのキャラだけに着目するならホラーでも問題なかったかな、と思ったりしなくはありません。
あと、予告編ですが、大事なことをネタバラシしてるんで見ないほうがいいです。
アホなの?と思った、本気で。