アメリカ 2015
監督 アレハンドロ・G・イニャリトゥ
原作 マイケル・パンク
1823年、アメリカ北西部で起きた実話を、小説を元に映画化した作品。
もう、序盤からぐいぐい引き込まれます。
なんなんだこの圧倒的映像美は、と。
オープニング早々、一行が森の中を進むシーンで早くも私はノックアウト。
林立する巨木の間を縫うように雪解け水が流れていくんですけどね、たったそれだけのことがなんかもう尋常じゃない幻想的美しさがあって。
ナショナルジオグラフィックの厳選された1枚を見てるかのようだ、とでもいいますか。
その後に待ち受ける原住民との争いを追ったカメラワークの流麗さも素晴らしいの一言。
集団対集団の混戦模様を点ではなく線で見せきるんです。
誰だこれ撮影してるのは、と調べたらトゥモロー・ワールドで私を仰天させたエマニュエル・ルベツキだった。
納得。
とにかくもう、熊に主人公グラスが襲われるシーンぐらいまでは目を離せません。
何が起きてるのかまだよくわからないんですけどね、語らぬ説得力が映像のマジックだけで緊張感を持続。
物語が本格的に動き出すのは怪我を負ったグラスを仲間はどう扱うか?からなんですが、そこからはイニャリトゥ監督の細部にこだわった描写力が冴え渡っていたように私は感じてます。
いわく、水を飲むと喉の傷から漏れる。
寒さをしのぐために死んだ馬の腹の中にもぐりこむ。
それを極寒の原生林の神秘的な美しさと対比するように描くから、その厳しさがより際立つばかりか、大自然で生きぬくことの凄まじさ、人の矮小さにすら感慨は及ぶ始末。
まあ、確かに長い、というのはあったかもしれません。
シナリオも終わってみれば単純な復讐劇で、とくになにか爪痕を残すほどのものではなかったですし。
でもここまで瀕死のサバイバルをどう描くかという部分を映像にこだわりぬいてやられちゃあですね、主筋である復讐そのものなんておつりのようなものだ、と私は思ったりもするんです。
単に「生き抜くことを描いたドラマ」で別にいいんじゃないか、と思う。
それだけでも見る価値は充分にある。
一貫して複雑で重厚な映画を撮り続けてきた監督が、今回はなぜかこのシンプルさ、というのもどこか興味深かったりはしましたね。
ちなみに主演男優賞を受賞したディカプリオの演技ですが、実際に生肉食わせたりするのはちょっとやりすぎ、と私は思った。
寒天食ってても生肉食ってるように見せるのが、ほんとに凄い俳優さんだと私は思うんですね。
もちろん生肉食ったから賞を受賞したわけではない、とは思いますが、そこまでやらないとリアリズムを演出できなかった、ってのは監督側なり俳優側に自分の限界を悟ってる部分があった、ってことだと私は考えます。
どう限界を超えるか、その方法論の選択に一抹の不安を感じたりはしました。
それがこの映画に対する私の評価をゆがめるほどのものでは決してないんですけど。