フランス 2015
監督 ジャック・オーディアール
脚本 ジャック・オーディアール、ノエ・ドゥブレ、トマ・ビデガン

内戦下のスリランカからフランスに逃れるため、赤の他人と家族を装う羽目になってしまった元革命軍兵士の慣れない異国での生活を描いた作品。
プロットは実に個性的だと思います。
イギリスのEU離脱というタイムリーな話題もあったことですし、難民の側から見た外国という視点は、一方的な論調に釘を刺す意味でもやたらと興味深かったですね。
見どころは、母国に強制送還されないために、知らない女や子供と懸命に家族を取り繕おうとする主人公ディーパンの姿。
なんせディーパン、フランス語がわからない。
内戦で妻と子供を亡くした、という心の傷もある。
にもかかわらず、適当につれてきた女がこれまたやたら反抗的なんですね。
団地の管理人をつとめながら、過去をひた隠し、何度も諍いを繰り返しながらも、少しづつ女や子供と心を通わせていくシナリオ展開は非常に見応えがあったように思います。
宗教や生活習慣、文化の違いはあれど「家族」という最小単位の心の拠り所は、どの国のどんな人たちであろうが結局等しく同じなんだなあ、と、今更ながらおかしな納得を経て、ちょっと心が暖かくなったりもした。
で、私はこの作品、きっと人間ドラマな着地点が待ってるんだろう、と一方的に思い込んでいたんです。
できたら幸せになって欲しいものだ、なんて夢想しながら。
だって終始そういうタッチでしたし。
ところがです。
驚きだったのは終盤。
それらしい前フリはもちろんあったんですが、地元の半グレみたいな連中の抗争に、突然偽の妻が巻き込まれてしまうんですね。
え、なんだ、この展開、とあわてたのも束の間、拳銃で武装するチンピラどもの集団に、ナタ一本で向かっていくディーパン。
ら、ランボーかよ!
もう本当にびっくりしました。
懐石料理食ってるつもりでいたら、いきなりメインにギトギトの肉料理運んでこられたみたいな。
もちろん、物語をそういう方向に転ばせることによって、相応のカタルシスがあったことは認めます。
内戦によって全てをうばわれた者にとっては半グレも同じく彼からうばうもの達だった、って解釈もできるように思いますし。
でもなあ、なんかこうテーマを完遂しなかったような気が私はしてくるんですね。
ラストシーンにしたって、いやそれ吊り橋効果じゃん!ってつっこみも成り立ってしまうのでは、と思いますし。
闘いを棄てたディーパンが、見知らぬ他人とどういう場所にたどり着くのか、がやはり私は見たかった。
どこか骨格がハリウッドっぽいですね。
で、ハリウッドがこの題材で映画作ればもっと劇的に、派手に、広く観客にアピールする感動大作にしちゃうだろうなあ、と思われる点がある意味悩ましかったり。
私は前半と後半が別物みたい、と感じました。
いやまあ、おもしろかったんですけどね。
フランス映画が苦手な人でも楽しめる作品だとは思います。