アメリカ 1957
監督 スタンリー・キューブリック
脚本 スタンリー・キューブリック、カルダー・ウィリンガム、ジム・トンプソン

戦争映画、って気持ちが滅入ってくるのであまり好んでみようとは思わないんですが、それでもこの「突撃」に関してのみはあらゆる映画好きにおすすめしたい、と思う次第。
第一次世界大戦の最中、無謀な計画を司令部から押し付けられた兵士達の悲運を描いた作品なんですが、この作品が他と違うのは、その狂気であったり、悲惨さを切々と積み重ねるのではなく、そうなってしまった軍部縦割り構造の断面をひどく冷徹な視線で描写している点にあるように思います。
こんなに悲劇的なんだ、こんなに狂ってるんだ、だから戦争は絶対ダメなんだ、と痛々しさで情に訴えかけるのは常套手段かと思いますが、この作品の場合、人の命が軽んじられるのはこういうやり取りがあって、こんな上層部の思惑があったからなんだよ、と傍観者的視点でわかりやすく説いてみせてるんですね。
だから結末に至るまでの道筋に感情論が入り込む余地がない。
そりゃ逃亡罪も捏造されるわ、と納得できてしまうのがこの映画の恐ろしいところ。
結局そこから透けて見えてくるのは戦争という名の官僚主義であったり、功名争いであったり。
我々が最も唾棄すべきは、本当は何なのか、それをこれほど饒舌に語りかけている戦争映画を私は他に知りません。
中盤で軍事法廷のシーンが挿入されるのも大きな見どころのひとつ。
なんと巧妙でアイロニカルな構成か、と舌を巻く。
そして白眉はやはりエンディングでしょうね。
多分、エンディングがなくともこの作品は完成を見ていた、と思うんです。
描くべきはすべて描ききってる、と私は思った。
ところがキューブリックは最後の最後で初めて観客の感情に戦争の本質をぶつけてくるんです。
もう見事すぎて涙腺決壊。
なんてシーンをもってくるんだ、と心乱れるやら、鼻水が垂れるやら。
一切の救いはなく、誰一人報われぬ物語ではありますが、 それゆえ核心をついた大傑作だと思います。
ジャンルを超えた必見の一本。