アメリカ 1986
監督 デヴィッド・クローネンバーグ
原作 ジョルジュ・ランジュラン
あまりに有名なSFホラーの古典「蝿男の恐怖」のリメイク。
クローネンバーグといえばブルードといいビデオドロームといい、生理的に気持ち悪い絵を得意としてきた人ではありますが、本人が集大成、と言うだけあって本作、そのグロさにも磨きがかかっていたりします。
ホラー好きとしてはたいていの血しぶきや肉片ごときではひるまない自信がありますが、さすがに徐々に蝿男に変貌していく人間の薄気味悪さには辟易させられました。
だって蝿ですもん。
そりゃムカデとか深海の生物とかアマゾンの変な生き物とか嫌なやつは地球上に溢れかえってますが、人間大の蝿って、他に匹敵するものがすぐには思い浮かばないほど私の中ではトップクラスで悲鳴をあげそうな代物でございました。
もうこれは見て体感していただくしかない。
この恐怖をおすそわけしたい。
ただこの作品、視覚的にグロい、ってだけじゃないんです。
そこはクローネンバーグ、ドラマ作りにも手抜かりはない。
オリジナルも優れたドラマを有した作品でしたが、私がこの映画で感心したのは、異形の悲劇をほんのワンシーンで何よりも雄弁に語っていたこと、なんですね。
想像すらしなかった悲恋の結末、という側面があるのも見事だと思います。
まさか蝿男で切なくなってしまうなんて、予想すらしませんでした。
どこかデッドゾーン(1983)にも通ずる哀切がありますね。
エンディングは必見です。
蝿男の手は何を掴み、何を示唆したか。
ホラーだからこそ表現できた悪夢のはての惻隠の情がここにはあります。
傑作。