イギリス/カナダ/アメリカ 2007
監督 デヴィッド・クローネンバーグ
脚本 スティーブ・ナイト
ヒストリー・オブ・バイオレンスに続いて、またもや暴力と闇社会がテーマのマフィアもの。
いや、ほんとどうしたんだクローネンバーグ?と昔からのファンとしては頭をひねるわけですが、監督のフィルモグラフィーや作家性を無視して考えるなら、これはこれでよく出来てます。
好きなことばっかりやってちゃ食えねえんだよ、ってことですかね。
いや、知りませんが。
どうあれ、この手の映画の好きな人にとっては高い評価を得そうだ、と思いましたね。
私がいいな、と思ったのは、作品自体が饒舌になりすぎてないこと。
いったい何が起こっているのか、説明的じゃないし、過剰に煽らないんですね。
重厚でどこかゴシック。
それゆえ登場人物たちの残虐さや、酷薄さが水滴の広げる波紋のようにじわりと鮮明に浮かび上がってくる。
とりあえずヴィゴ・モーテンセンが前作にもまして圧倒的な存在感で滅茶苦茶渋いです。
もうこれは男でも惚れる。
サウナでフルチンで格闘はやりすぎか、と思いましたが、そういう部分も全部隠さず見せるのがクローネンバーグなんでしょうね、きっと。
そこだけが彼らしい、というのもひどい話ですが。
これから、というところで突然終わってしまったエンディングは賛否両論かもしれませんが、作品の描こうとしていたことがマフィアの盛衰ではなく、その世界に生きる人々、関わってしまった人の断面なのだとしたら、あれはあれで正解、と私は思いました。
どこか美しい、とも思った。
まさにハードボイルドの美学ですかね。
多くの人がいい作品だ、と推すのも納得の一作。
ただ従来の監督のファンは、さいごまで狐につままれたような心もちかもしれません。