ワン・バトル・アフター・アナザー

2025 アメリカ
監督、脚本 ポール・トーマス・アンダーソン

過去に非合法活動をしていたせいで娘を誘拐される羽目になる父親の、孤独な奪還劇を描いたサスペンス。

えー、これがリーアム・ニーソンだったら間違いなく娘誘拐した側が後悔する展開になるわけですが、さすがにディカプリオではそうもいかず。

大昔は有名な革命家(テロリスト)だったんですが、現在は酒とドラッグでヘロヘロの中年男、という設定でして。

もうやばいぐらいに何もできんわけですよ、ディカプリオ。

過去の仲間を頼って右往左往するしかない状態。

なんせ敵は現役の警視。

部隊を動かせてしまうほどの権力者。

さて主人公は無事に娘を取り返すことができるか?が物語の見どころなわけですが、これがですね、ありがちなパターンに陥ることなく、独特な語り口で魅せるあたりがさすがはポール・トーマス・アンダーソンだなあ、って感じで。

普通は知恵と工夫で攻略だと思うんですけどね、物語は偶然と巡り合わせの機微で必然を産んでいく展開となるんですよね。

圧倒的にうまかったのは、幾筋ものストーリーを操りながらもとっちらかった印象を与えなかったこと。

おおよそエンタメで間違いないと思うんですが、どこか重厚な感触もあって。

ふいにコーエン兄弟のノーカントリー(2007)を思い出したりも。

ぶっちゃけ、これまでに見たアンダーソン監督の作品の中で一番面白かったことは確か。

実は正直なところ、アンダーソン監督って私はちょっと苦手でして。

ブギーナイツ(1992)ぐらいまでは好きだったんですが、マグノリア(1999)、マスター(2012)と両方、途中で寝ちゃったんですよね(そういえばインヒアレント・ヴァイス(2014)もピンとこなかったなあ・・)。

三大映画祭を制覇した監督に対する所業とは思えぬ蛮行だったりするわけですが、なんだろ、整い過ぎてて集中力のスイッチ切れちゃうというか。

いや、違うな、なにか他にもっと明確な原因があると思うんだけど、諸作を見たのが昔すぎて色々と記憶もあいまいな状態でして。

どう判ずるべきなのか、材料がなさすぎて自己分析できない状態。

どうあれ、アンダーソン、というと反射的に船漕ぎ出したりしちゃうんですよ、この無礼者は。

それゆえ「いったいどうした?」と驚かされた部分もあって。

相当、寄せてきてるようには感じましたね、いや、娯楽映画に。

割とね、小難しいというかややこしい映画ばかり撮ってきた人だと思うんですよ、監督って。

巧みな心理描写で内面を掘り下げていくタイプの作品が多かった気がする。

それが今回はいい意味で割り切ってて。

わかりやすさやスリルに重きを置いた気がしますね。

そこにデイカプリオの熱量高い演技が見事はまった印象。

ショーン・ペン演じるえぐい変態警視のキャラも良かった。

私がアカデミーの審査員なら、ショーンは間違いなく助演男優賞。

あとは、終盤の上下を意識したカーチェイスか。

映画ってね、基本横移動だと思うんです、スクリーンを平面と考えるなら。

縦移動の演出、ってあんまりない。

それを小さな丘陵が連続する道で「縦のスリル」を見せつけるとは恐れ入った。

ヒットも納得ですね。

ま、いささか騒がれすぎな気もしますけどね。

ただ、この調子でアンダーソン監督がエンタメを意識し続けたらとんでもないことになる気はします。

そもそもの力量が段違いですからね、希代のヒットメーカーに化けるやもしれませんね。

ねじレート 90/100

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