アメリカ 2011
監督 ダンカン・ジョーンズ
脚本 ベン・リプリー
列車爆破テロの犯人を突き止めるべく、炎上8分前に何度も送り込まれる男の苦闘を描いたSFサスペンス。
いわゆるタイムループもの(同じ1日、同じ瞬間が何度も繰り返される)と誤解されがちですが、厳密に言うと違う、ってのがこの映画の肝。
ここ、ものすごく大事です。
ここをきちんと理解してないと映画のラストシーンの意味が全く理解できないだろうと思われます。
主人公は、量子物理学を応用した先端科学なマシンで実際に列車へ乗り合わせていた乗客に意識を転移させる、というのが物語の設定なんですね。
タイムループはまるで無関係。
ですんで「恋はデジャ・ブ」や「タイムアクセル12:01」ましてや「バタフライ・エフェクト」なんて同列に語ることすらおかしい。
作品の語り口では、え?タイムトラベルじゃないなら仮想現実ってこと?って、解釈してしまいがちなんですが、実はこれ、量子物理的パラレルワールドを主題としてて。
それは中盤、マシンの開発者である博士が自ら口にしてる。
これを「え、そうだったの?」と気に留めた人だけが監督の仕掛けた本格SFの妙味を味わえる仕組みとなってるんです。
主人公は「シュレーディンガーの猫」なんですね。
シュレーディンガーの猫をご存じない方は調べていただくとして。
それを踏まえてこそ、なぜラストシーンがああなったのか、やっと解せる内容になってるんです。
なんとも本気でハードSFです。
これを映画でやるか?ダンカン・ジョーンズ、と正直私は震撼しました。
よくまあこんな難解なネタをハリウッドが許容したな、と。
制作にかかわった連中は本質を理解してなかったのかもしれませんけどね。
また監督が凄かったのは、専門性にまで観客が踏み込まなくても充分楽しめるよう、エンターティメント性にも心を砕いていること。
たった8分で犯人を突き止めなければならない主人公の焦燥、そして何故自分がそんな任務にあたらなくてはならないのかわからない恐怖、何の説明もなく強制的に繰り返し転移させられる謎等、そのスリルと緊張感ときたらまばたきする余裕すらないほど。
徐々に事態の真相が明かされていくくだりも見事の一言です。
二重三重に用意された主人公を取り巻くショッキングな事実の数々は、驚きを伴って強い感情移入を観客にもたらします。
最後の8分間なんてもう、涙腺決壊寸前。
ジェイク・ギレンホールの演技も素晴らしかった。
全てを理解するにはいささかハードルが高い部分もあるかとは思われますが、物理学を思弁するSF映画なんて滅多に転がってたりしません。
まさに知的興奮と物語性の同居。
傑作でしょう。
文句なし。