アメリカ 1974
監督 トビー・フーパー
脚本 トビー・フーパー、キム・ヘンケル

スラッシャームービーの礎となった作品として有名な一作。
いまやド定番すぎて誰もやらない「アホな男女数人がパーティ気分で田舎に出かけたら、気の触れた殺人鬼がいて全員惨殺」を最初にやったのがこの作品か、と思うとなにやら感慨深かったりはしますね。
まあ、この作品に登場するのは格別アホな男女、ってわけでもないんですけど。
ストーリーのモデルとなっているのはアメリカでは広く知られたエド・ゲイン事件らしいですが、そこは言われなきゃわからないレベル。
かなり大胆に脚色されてます。
なんせ「サイコ」もエド・ゲイン事件をヒントにしてるという話ですから、両者の作品内容の大きな違いからしても本作のオリジナル色は濃厚と言っていいでしょう。
で、私はこれを実に正しい、と思う。
実話ベースで起こったことに忠実な映画が年に何本も公開されますが、この作品が同じようにエド・ゲインの凶行をリアルに再現してたら40年を経て人々の記憶に残る、なんてことはなかったでしょうね。
エド・ゲインからレザーフェイスというキャラを創造したトビー・フーパーは素晴らしく賢明だったと思う。
なんせ屠殺用のエプロンをつけ、人皮マスクをかぶり、チェーンソーを振り回す大男ですよ。
そのインパクトたるや強烈。
大の男でも裸足で逃げ出したくなります。
特に序盤、いきなり屋敷の奥から登場してきて無造作に青年を撲殺するシーンは今見ても震え上がりましたね。
しかもこれをものすごく淡々と撮るんですよ、フーパーは。
もう、マジで怖い。
作品全体を通して、チェーンソーの駆動音とマリリン・バーンズの悲鳴が主な音響になってるとしか思えない、ってのがまた気の触れた話で。
これでもかと不快感を煽ることにしか執心してない。
まあちょっとくどいかな、と思える部分もあったんですけどね。
でも、不協和音がなんらかの偶然で奇妙な旋律を奏でる瞬間があるとしたら、きっとこういうケースなんじゃないか、とホラーファンな私は思ったりもする。
狂気と混沌に満ちたラストシーンも秀逸。
あそこでシーンをぶった切る、ってのにセンスを感じるし、何より夕陽をバックにしたレザーフェイスの絵があまりにも悪夢的詩情を漂わせてて驚かされた。
唯一気になったのは、ドキュメントなタッチを狙ったせいか、前半車中での出来事が若干気味悪さに欠ける、車椅子の青年が別段なんの意味もなく車椅子だったことぐらいでしょうかね。
いや、普通は5人組の被害者のうちの一人が車椅子だったら、これはきっと彼の存在がなにかの伏線、前フリになってるに違いない、と思うだろ、って話で。
まあ、いいんですけど。
スラッシャームービーなのにほとんど派手な血飛沫とか演出されてない、ってのも注目に値すると思います。
なのにやたら怖い、ってのがこの作品の真骨頂でしょうね。
フーパー商業デビュー作にして最高傑作だと思います。
ほとばしる狂気をフィルムに焼きつけた異形の一作。
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