タイ 2014
監督、共同脚本 ニティワット・タラトーン
さて、これまでタイの映画なんて全く見たことがなかった私ですが、この作品をタイ映画全体の標準とするのは早合点過ぎる、と思いはするものの、予想以上にレベルが高くて驚かされた、ってのは確か。
非常に丁寧に作ってあることに好感をもった、ってのはありましたね。
うまいなあ、と思ったのは置き忘れられた日記を小道具として、ヒロインの心の機微を雄弁に語らせたこと。
終盤ではそれが逆転して、臨時教師である男性の内面を語る役割をも果たす、ってのがまた心憎い。
要は「引き」が恐ろしく巧みなんですね。
出会いそうで、出会わない。
二人をか細い線でつないでいるのは古ぼけた日記のみ。
いざ会おう、と言う段になって、突然障害が発生する、ってのも出来すぎた少女漫画並みに小器用で思わずニヤリ。
これ、ラブロマンスにおける定番必須パターンであることは間違いないんですが、それでもなんだかやきもきさせられるのは、そこに不純物がないからでしょうね。
湖の上に浮かぶ水上小学校というロケーションで、スマホに頼ることも出来ないというローテクな環境設定は、つい古き良き時代の郷愁を誘うとでもいいますか。
余計な情報やSNSに代表される「近すぎる距離感」が不在だから、すべてはなすがまま偶然にまかせるしかない。
ああ、人と人との関わり、って本来こんな感じで予測不能なものだよなあ、と変に納得してしまうものがあるんですよね。
即物的に愛だ、恋だと騒ぎ立てずに、あくまで恋愛未満のほのかな憧憬を朴訥に描いてるのもいい。
私はなんだか昔の良質な日本映画でも見てるような気分になりました。
ただね、私ももういいオッサンなんでね、ちょっと気恥ずかしいものがあったりはしたんですよ。
特にラストシーン、あまりに真正面から純朴すぎて、思わず赤面してしまった。
いやーまいった、まいった。
若い人に一度見てほしい作品ですね。
決して怒涛のドラマチシズムに彩られた内容、というわけでなく、本当にささやかな物語なんですけど、ああいいものを見た、という気持ちになれる一作だと思います。