アメリカ 1940
監督 アルフレッド・ヒッチコック
脚本 チャールズ・ベネット、ジョージ・ハリソン

第二次世界大戦前夜のロンドンにて、戦争抑止の要たる人物にインタビューするはずが、成り行きから思わぬ事件に巻き込まれてしまう新聞記者を描いたサスペンス。
なんだこれ、ってレベルで面白くてとても80年前の作品とは思えません。
陰謀渦巻くサスペンスってのはこうやって撮るんだよ、と諭されているような気にすらなる教科書のような映画ですね。
そりゃね、1940年の作品ですから、さすがに無理があるだろ、と思えるような場面や、キャラクターの道徳や倫理に古臭さを感じる部分はもちろんあるんですけど、それを上回ってストーリー進行がスリル満点だし、次から次へと放り込まれてくるアイデイア、エピソードの数々が盛りだくさんすぎてつっこむ隙を与えてくれなくてですね。
ほんと感心しましたね、さすがは神様ヒッチコック。
細部を手直ししてやれば十分現代でも通用する一作だと思います。
というか、同じ土俵で見比べても9割のサスペンスは及んでない、と思う。
みんな真似しまくってるな、と。
脳裏をよぎった諸作がいくつあったことか。
やはり、なんといっても優れていたのは一本道でない脚本でしょうか。
死んだはずの人物が実は生きていると知ってるのが主人公一人で、孤立無援な探索を強いられる序盤の展開も良かったんですが、真犯人がよりにもよってあの男だった、というのも巧妙の一言。
なにかひとつ間違えたら戦争が始まってしまうわけですよ。
その責任をたかが新聞記者に背負わせる緊張感ったら半端じゃない。
しかも対処の仕方次第では、進展しつつある主人公の恋の行方にも大きく影響を及ぼす仕掛けになってまして。
社会正義と恋愛を表裏一体のドラマでがんじがらめにする作劇はお見事というほかない。
さらに圧巻なのは終盤での航空機墜落のシーン。
まだ盛ってくるのか、と。
もう十分盛り上がってるのに、最後の最後まで監督は手を緩めることがなく。
戦火の足音をこういう形で演出する手管にも恐れ入りましたが、CGの存在しない時代にここまで見事な墜落シーンをフィルムに収めた名人芸にも感服の一言。
多分、合成だと思うんですけどね、普通に迫力があってあたしゃ本当にびっくりした。
また、ラストシーンが感動的で。
この映画を見て、当時すでに戦場と化していたヨーロッパに、観客はどんな思いを抱いたんだろう、と想像してしまいましたね、私は。
傑作だと思います。
ヒロインが単なるお人形さんじゃないのがむしろ現代的と言えるのではないか、と思ったりもしました。
あんまり有名なタイトルじゃないですが、なんでこの作品がもっと話題にならないんだろう、と私は思いますね。