1970年初出 水木しげる
講談社KCスペシャル 全2巻
水木しげるの悪魔くんシリーズはリメイクやらリテイクやら色々あって本当にややこしいんですけど、私が読んだのは当時の少年ジャンプに連載された原稿を講談社が再録、再刊行したもの。
えーまず最初に貸本版の「悪魔くん(63~)」があるんですね。
これは人気がふるわず、途中で打ち切り。
その後、少年ジャンプで、貸本版悪魔くんをきちんと最後まで描こう、とセリフリメイクしたのが「悪魔くん千年王国(70~)」とタイトルをあらためられた本作。
後に人気を博し、実写版やアニメがテレビで放映されたのは、貸本版とも千年王国とも違う、別冊マガジンに連載された「悪魔くん(66~)」。
この「悪魔くん(66~)」に関しては、別のページに記述しています。
えーと、言いたいこと、伝わってますかね。
で、肝心のこの千年王国ですが、少年がソロモンの笛を使って悪魔を使役する、という設定はテレビ版と同じなものの、内容はがらりと変わってシリアスです。
そもそも悪魔を利用する目的が、人類が平等で幸福に暮らせる千年王国樹立のため、と言うのだから、もう志が全然違うわけです。
主人公悪魔くんは理想を実現させるべく、12使徒をともなって、欲望にまみれた現実社会やこの世あらざるもの、サタンや神仙、悪鬼に戦いを挑みます。
まず私が一番驚かされたのは、あの水木しげるにこんな反骨の感情があったのか、と言う点ですね。
ケンカはやめろ、腹が減る、と作中で達観したようなことをちょくちょく書いておきながら、この革命的精神性は何事か、と。
まさか水木漫画で世間の無理解や悪意、利己主義と戦う小集団の孤独な戦いを読まされることになるとは予想すらしませんでした。
またこの作品がすごいのは、その内実を神秘学的側面からも描いていることですね。
こりゃもう現代水木神話といってもいい絢爛さだと私は思います。
エンディングがこれまた衝撃的。
その顛末が暗喩する愚かさは、私達に問いかけます。
本当に千年王国を実現するためには、何が一番必要なのか。
本来の作者の持ち味からは逸脱したようにすら思える異端の大作。
いや、これは傑作でしょう。
鬼太郎ぐらいしかしか水木しげるは知らない、と言う人に是非読んで欲しい1冊。