アメリカ 1997
監督 ウォルフガング・ペーターゼン
脚本 アンドリュー・W・マーロウ
まあ、もうみんなつっこんでますけど、こんな大統領が居るわきゃない、ってのがまず前提としてあって。
テロリストにハイジャックされた大統領専用機において、単身銃を手に、拘束されたファーストレディと娘を救い出すアメリカ合衆国の頂点に立つ男、って、そんな無茶振りの設定、少年マンガでもやらんわ!って話で。
いつから大統領はダイ・ハードなランボーが勤める役職になったんだ、と。
またもう、ハリソン演じる大統領の強えこと強えこと。
なんら優位にあると思えない場面においてすら、一瞬の隙をついて敵の銃を奪い、圧殺。
挙句には裸締めで兵士を締め落としたりさえもする。
ミスタープレジデントは総合格闘技の心得すらおありで、忙しい職務の合間をぬって普段から肉体の鍛錬に余念がないようである。
どう見てもインディ・ジョーンズ。
私はいったいいつあのテーマソングが流れ出すのかと、始終冷や冷やさせられた。
嘘です。
ただね、そういった荒唐無稽さをペーターゼン監督がまるで理解してなかったか、というとそんなはずはないわけで。
わかっててそういう風に仕上げたんだろうな、と。
結局、強いアメリカ、テロに屈しないアメリカの国威発揚を意図したプロパガンダ映画なんですよね、これって。
ハリウッドじゃよくあるパターン。
私がいささかショックだったのはドイツ人監督であるペーターゼンみたいな人材ですら、そういう仕事を引き受けちゃうのか、といった点。
監督業をアメリカで続けていくこと、って本当に大変なんだろうなあ、と遠く思いを巡らせたりもしましたね。
でもまあ、ファンの欲目かもしれませんけどね、前提にあえて目をつぶることができるなら、映画の出来自体は決して悪くはないです。
どう危地をかいくぐって妻子を助け出し、テロリストの手からエアフォース・ワンを奪還するか、要所要所を押さえたスリルの演出はさすがの安定度。
最後にはエアフォース・ワンからの命からがらな脱出劇まで用意されている、という念の入れよう。
意外とこの映画のファンが多いのは、航空機パニックものとしてきちんとツボをおさえた作りになってるからに他ならないでしょうね。
真面目に見ると呆れてしまうしかないですが、大統領云々を忘れてやることができるなら手に汗にぎる名画、となりうるかもしれません。
ま、トランプが当選しちゃうような昨今のアメリカですから、ひょっとしたら将来的にはこういう大統領も誕生する日が来るのかもしれませんけどね。
現実が映画を追い越す、なんて勘弁ではありますが。