フランス 2015
監督、脚本 サミュエル・ベンシェトリ
フランス郊外の古ぼけたマンモス団地に住む3組の普通な人たちの暮らしぶりを、コミカルに描いた群像劇。
落ち目の女優と少年の交流を描いたお話、宇宙飛行士と老婆の交流を描いたお話、看護師に思いを寄せる中年男の涙ぐましい努力を描いたお話が錯綜してストーリーは進行していくんですが、オープニング早々、いきなり団地の屋上にNASAの宇宙飛行士が脱出ポッドごと不時着してくるシーンで私はハートをわしづかみにされましたね。
なんというシュールな絵を撮るんだと。
たぶんここに一番金がかかってると思います。
このシーンを理解させるために、わざわざ宇宙空間での生活を描いたシーンまであらかじめ撮っておく、ってのがほんと凝り性で笑える。
団地と宇宙、ってかけ離れすぎ、と思わず破顔。
内容的には別段宇宙飛行士を登場させる必要もない感じではあるんですけどね、そういうどうでもいいところにやたらこだわってくるのって、私は結構好きですね。
中年男がエア自転車こぎダイエットをやりすぎて車椅子生活になる、というもう一方の筋立てもバカバカしすぎて腹を抱えましたし。
基本、狙いすましたアメリカナイズな笑いはなくて、どちらかと言えばオフビートでつつましやかな感じなんですけど、センスがいい、というのは感じました。
また、設定を活かして、さりげないドラマに仕立て上げるのがうまいんですよね、この監督。
落ち目の女優を勇気づけるのがろくに映画の事も知らない少年の言葉だったり。
宇宙飛行士の面倒を見るのが息子を収監されているアルメニア人の母親だったり。
どう物語は転んでいくんだろう、と観客の興味をひくのが上手というか。
それぞれのストーリーにきちんと見せ場があるのにも私は感心。
特に落ち目の女優を演じたイザベル・ユペールはすごい演技を披露してたと思います。
あえて難をいうなら、どのお話も結末らしい結末、相応の落とし所が描かれてないことでしょうか。
でもこれはこれでいい、と私は思うんですね。
その後、登場人物たちが幸せになったのか不幸になったのかはわからない。
でも、彼ら、彼女らの、慎ましやかな生活にふと訪れた小さな転機を描いた作品としてはこれ以上なく饒舌で、見事その一局面を切り取っていたように私は感じました。
特に傑出した出来、ってわけじゃないんですけどね、なんか好きですね、私はこの映画。
細部をいつまでも覚えてるのって、多分こういう作品だと思います。