メキシコ 2017
監督、脚本 イッサ・ロペス
邦題がややこしいんですが、近年公開され、第一作目にして激しくコケたダーク・ユニバースのザ・マミー(2017)とは同名別映画。
そもそも原題はスペイン語でVUELVEN、マミー(オカンの意)なんて欠片も表記されてません。
この映画のタイトルをマミーにしたかった担当者の意図はわからなくもないんですが「トム・クルーズ主演作とかぶるからやめとこう」ぐらいの配慮は最低限してやれよ、って思いますね。
検索してもまともに出てこねえじゃねえかよ、って。
売る気ねえのか?とすら思う。
ま、近年の邦題のブサイクさは昨日今日に始まったことじゃないんで、何を言ったところで暖簾に腕押しかとは思いますが。
で、肝心の内容なんですが、一風変わったホラー、とでも言えばいいでしょうか。
2006年に勃発した麻薬戦争以降、荒廃の一途とたどるメキシコのとある街が舞台のお話なんですが、さあ、怖がらせてくれよ、と身構えてたりなんかすると軽く肩すかしをくらいます。
なんせ冒頭からいきなり主人公の少女が通う学校の外で銃声が鳴り響き、授業は中断、みんな頭を低くして!と先生大慌ての大混乱。
学校どころじゃない、ってことで少女が自宅に帰ると、オカンがギャングに拐われてどこにも居ない。
普通なら大騒ぎになりそうなものですが、そこはメキシコ、誰もオカンを探してくれないし、一人になった少女を助けてもくれない。
食べるものにも事欠いて、やがて少女はストリートチルドレンに転落。
なんなんだよ、この生々しい展開は、と。
シティ・オブ・ゴッド(2002)かよ!って。
そこはまあボーダーライン(2015)でもいいんですけどね、要はあまりに現実的で、陰惨すぎて、ホラーの入り込む余地なんかねえじゃねえかよ、ってことであって。
見てる側としては、なんの力も持たない少女が薄汚い大人の身勝手に振り回されて、生死すらも脅かされそうになる社会派ドラマでも追ってる気分になる。
一応随所でね、ファンタジックというか不気味なシーンが挿入されたりはするんです。
黒い蝶がスマホから舞い出てきたり、遺体から流れ出た血が少女を追いかけてきたり。
けれど少女の身の上と、メキシコの社会秩序崩壊ぶりが気になって「恐怖を楽しむ」どころじゃなくてですね。
そうこうしている間にもストリートチルドレンの仲間がギャングに捕まったり、殺されたりで、挙げ句には路上の住処にすら少女は居られなくなる始末。
こんな状況で「怪奇」とか「超常」とかほざいてる場合か!って話で。
監督がね、メキシコの現実をダークファンタジー調の寓話で彩ろうとしてるのはわかるんです。
願いを叶えるチョークとか、自由を象徴する虎の存在とか、救われなさに薄昏い希望の灯火を掲げようとしているのは理解できる。
でもやっぱり難しいですよね、生き延びることが第一義にある弱肉強食の世界とオカルトを同居させるのは。
結局どっちにも集中できない。
パンズ・ラビリンス(2006)と比較する人を見かけたりもしますが、両者が決定的に違うのは「現実からの乖離、逃避」をデル・トロが描いていたのに対して、本作は「現実との共存、現世利益」を描写しようとしていた点でしょうね。
もしこの作品がパンズ・ラビリンスに肉薄するのだとしたらラストシーンのその後、になるんじゃないですかね。
終盤のショッキングな展開、幻想性に才能を感じたりもしたんですが、いささか練り込み具合が足りない、といったところでしょうか。
次作はデル・トロがプロデュースする、って言ってますんでひょっとしたら大化けするかもしれませんが。
佳作。
意欲的な試みではあった、と思うんでそこは評価したいですけどね。