アメリカ 2012
監督 ティムール・ベクマンベトフ
原作 セス・グレアム=スミス
かの有名な米国の大統領、エイブラハム・リンカーンは実はヴァンパイア・ハンターだった!ってなトンデモ映画。
いやいやマジでありえないし、意表を突きたいのはわかるがそれも程度の問題、と呆れ返る人続出であろうことは承知の上であえて書きますけどね、これがあなた、トンデモなりに悪い出来ではなかったりもするんで侮れません。
私がまず感心したのはリンカーンがハンターであることを、相応の説得力と整合性でもって観客に説いてみせてることですね。
もちろん「ない」ですよ、そんなことは絶対にね、でも絶対をどうひっくり返して信憑性をもたせるかがこの手の映画の命題だとするなら、少なくとも嘘八百を、わかってくれる人だけついてきてくれりゃいい、という姿勢で開きなおっていないことだけは確か。
リンカーン幼少期にまでさかのぼって、なぜ彼はヴァンパイアという存在を知り得たのか?どうして戦うことになったのか?を紐解いていくシナリオ展開はうっかりすると信じ込んでしまいそうな蠱惑的ペテンに満ちていて。
私があと20歳も老人だったら、捏造だと気づかずに思わず信じ込んでしまうんじゃないか?と心配になるレベル。
結局、大統領ってのは後付けなんですね、物語においては。
まずハンターとしての彼があって。
それが結果的に大統領になっただけ、という。
奴隷解放宣言をヴァンパイア殲滅のための策謀にからませた物語作りもうまい。
ここまで想像力豊かな陰謀説を構築できるならそれにのってやってもいい、とほくそ笑んでしまうほど。
アクションも見せ場たっぷりです。
斧をぶんまわして吸血鬼共を狩っていくリンカーンは問答無用でかっこよくて。
特に終盤の暴走する列車での最終決戦はスリリングの一言。
ほの暗い映像が大活劇を黒々しく演出する手法はまさにベクマンベトフの真骨頂。
そりゃね、終わってみれば、いや、やっぱりないわ、これは、と現実に引き戻されるかも知れませんよ。
でもね、荒唐無稽なのに最後まで子供騙しに堕さなかったスタンスは稀有なように思うんです、私は。
傑作ではないかも知れません。
でもなんか好きだわ、こういう映画、と笑って言える一作ですね。
有象無象のアクションSF、ファンタジーは見習うべき点がたくさんあるのでは?そんな風に思えました。