韓国 2007
監督、脚本 キム・ギドク
なんだか「シチュエーション・ラブロマンス」とでも言いたくなるような一作。
多分、何故?だとか、どうして?だとか考えちゃあいけないんだと思います。
この手の「わけのわからなさ」って、監督の2000年以降のフィルモグラフィーに顕著なように思いますが、今回はそれなりのもっともらしさで補完する気すらなく、独走状態ですね。
ついてこれる人だけついてきて、みたいな。
おそらく熱心なファンは、これをアーティスティックだとか、余計な説明を廃した結果の産物であるとかおっしゃるんでしょうけど、ギドク作品初見の人はまず間違いなく「どうしてそうなるのかわからない」心理状態におかれることと思われます。
かといって、難解なわけじゃないんですけどね。
あまりに、シナリオに脈絡がないだけで。
物語で描かれてるのは死刑囚と人妻の恋なんですけどね、そもそも二人にはなんの接点もなくて。
偶然、テレビで見かけた死刑囚に、ヒロインは突然面会に行って、あれやこれやと元気づけようとするんです。
別段ヒロインが人権派で死刑反対を主張している人物というわけではない。
死刑囚も、ヒロインが昔の女に似てて心惹かれた、ないしは一目惚れした、というわけじゃない。
なのに会って2回めには激しく互いを求め合う間柄になってたりするんですね。
それを優しく見守る刑務所所長。
個室でキスしてても刑務官に止めさせない。
一応、背景には、ヒロインの旦那が浮気してて家庭崩壊してたとか、かなり婉曲な動機付けがあったりするんですけど、それにしたって突飛で極端すぎてなんの感情移入もできないことは言わずもがな。
もうね、なにやってんのこの2人?って。
なんのファンタジーなんだこれは?と。
おそらくギドクは、刹那的で期限付きの恋を、鉄格子に阻まれた局地的状況で超俗に描写したかったんでしょうね。
多分、それだけ。
で、そんな恋を説得力たっぷりに演出するための肉付け、底上げを放棄というか、手抜きしちゃったんですな。
弓(2005)ぐらいから、怪しいなあ、とは思ってたんですけど、ついにやっちゃったか、って感じです。
暗示するものを丁寧に拾い上げる方々もきっとおられるんでしょうけど、個人的には失敗作だと思いますね。
もうポエムになっちゃってますもん。
さすがにこの内容をエキセントリックさだけではカバーできないと思います。
サマリア(2004)、うつせみ(2004)と、高い評価を得た作品が続いたんで、なにかしらプレッシャーがあったのかもしれませんね。
ひたれる人にのみ訴えかける一作。
もしリアルタイムで見てたら、この路線でこのまま突き進むとやばいぞ、と思っただろうなあ。