スウェーデン/デンマーク 2019
監督 アリ・アッバシ
原作 ヨン・アイヴィデ・リンドクヴィスト
こりゃちょっと記憶に爪痕を残す怪作だな、と思いましたね。
隠し事を嗅ぎ当てる不思議な能力を持つ女を描いたSFなんですけど、主人公のティーナ、これがもうとんでもない醜女でして。
「ブス」とか「ブサイク」だとか、そんな簡単な言葉で蔑むレベルを超えて、もはや異形に近い存在というか。
主人公、その特殊な能力を買われて、空港の税関で働いているんですけど、その能力を発揮するシーンがこれまたすごい。
犬のようにクンクンと鼻を鳴らすんですけどね、もう、どう見ても獲物を物色する肉食動物。
うちの田舎のばあちゃんが見たら「ありゃキツネ憑きだ!」と騒ぎ出しそうな所作でして。
というか子供が間近で見たら間違いなくひきつけ起こす。
容姿で差別するわけじゃないけど、さすがにこういう人材を接客業というか、国の玄関口に立たせておくのはまずいんじゃないか、と無関係な私がたじろぐほどなんですよ。
いったいどこからこんな女優を探し出してきたんだ?と。
いくらなんでも獣並みに人外な印象を抱かせる怪女を主役として、110分、じっくりお付き合いください、って冒険がすぎやしないか?と。
世の中には掘削してみたところで地獄の手触りを確かめるだけでしかない「暗渠の澱」が歴然と存在しているわけで。
そんなところに酔狂にも手を突っ込んだところで、押し寄せてくるのは深い後悔だけ。
もうね、嫌な予感しかしないわけですよ。
救いようがないし、救われようもない、わずかばかりの特殊能力がこの女に何をもたらすってのか?と早い段階で私の気分は沈鬱に。
そしたらだ。
物語は中盤以降、予想外の方向に。
ネタバレになっちゃうんで詳しくは書けないんですけど、まさか人外を思わせる外見がそういう意味を持っていたとは・・・と軽く唸らされる。
ま、そこからも相変わらずキツイ場面の連続ではあるんですけどね。
腑には落ちましたよ、でも徹頭徹尾グロい。
湖のシーンとか、あたしゃUMAが格闘してるのか、と思いましたし。
話題になった交接のシーンにしたって、人に昆虫が乗り移ったのか、と思った。
なんて美しくない映画だろう、と。
スウェーデンの寒々しくも壮観な林野との対比が、これまた醜さをさらに際立たせるという理解不能な徹底ぶり。
監督、何を考えてんだ?とマジで思いましたね。
お前は日野日出志か、と。
ただ、この映画が秀逸だったのは、美醜や立場を超えて「生まれか育ちを選ぶことが尊厳を守る場合もある」と最後に知らしめたことでしょうね。
自分でも驚いたんだけど、少し感動した。
目を背けたくなる醜さの渦中にあって、その気高さが燦然と美的であったことは確か。
この作品を、人は外見じゃない、と教科書口調で諭すのは簡単ですが(実は微妙に間違ってるけど)、最大のポイントは「ティーナ」の「最後の選択」がアレだった、という点でしょうね。
いばらの道を生きることで前を向けるなら、それもまた恥じることのない生き様なのかも知れない、そんなことを考えさせられた作品でした。
そう考えるとグロで徹底した演出も意味があったのかなあ、なんて思ったり。
ショッキングで痛々しいシーンも多い作品なんで、万人におすすめしかねる1本ではありますが「ここでしか描けないなにか」は存在したように思いますね。
ちなみに原作は、ぼくのエリ(2008)を執筆したヨン・アイヴィデ・リンドクヴィストの短編。
ほんとこのオッサンは問題作ばっかり書くなあ。
詳しくは知らないけど。
あと、主演を努めたエヴァ・メランデルは毎回4時間の特殊メイクで撮影に挑んだそうです。
少し安心した。
同時に、よくぞこの役を引き受けたな、とも思いました。
すげえ女優魂だ。