ウワガキ

2009年初出 八十八良
エンターブレインビームコミックス 全4巻

ちょっと不思議なラブコメが読みたい、と思ってる人にとってはど真ん中ストライクな作品でしょうね。

なんといってもプロットが独特。

主人公アジオは同級生の千秋のことが大好きなんだけど、千秋には残念ながら彼氏がいることが第一話で判明。

ショックを受けてるところに科学の先生が現れて「そういうことなら千秋君を二人にすればいいじゃないか」と、彼女を分裂させてしまう。

コピーされた方の千秋には、彼氏の記憶がない。

一定の期間を目処に、アジオがコピー千秋を自分に惚れさせればよい、と先生は言う。

なぜなら、再び千秋とコピーが融合する際、コピー千秋の気持ちが今彼以上にアジオのことが好きだったら感情は「上書き」されてしまう仕組みだからだ。

さて、恋愛ゲームにアジオは勝利できるのか?

いやもうね、古い話で恐縮なんですが、細野不二彦のどっきりドクター(1981~)かよ、と私は思いましたね。

謎のテクノロジーを駆使する正体不明な科学の先生といい、それに振り回される生徒たちといい、これ、温故知新を地で行くラブコメじゃねえかよ、って。

作者が上手だったのは、荒唐無稽を細かなルール作りと巧みな心理描写でもっともらしく演出してみせたこと。

特にヒロインの揺れる女心を丁寧に拾い上げていく作業には、つくづく感心させられましたね。

男性漫画家の手管とは思えぬ機微がある。

登場人物たちの経験値が低すぎる上に純真であるがゆえ、揉める方向へ揉める方向へとシナリオが進んでいくのももどかしさ満開でいい。

終盤に至っては先生を捕獲しようとする諜報機関まで現れて、大活劇の様相すら呈してくるのだからほんとに抜かり無くエンターティメントだなあ、と感心することしきり。

ま、私のようなおっさんにはね、いささか気恥ずかしくなる作品ではあるんですけどね、0年代にこのネタでラブコメやるとしたら、これ以上の仕上がりって、ちょっと考えられない気がしますね。

高い力量を見せつけた良質な一作だと思います。

映画化向き、と思ったりなんかもしましたね。

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