2013年初出 朱戸アオ
講談社アフタヌーンKC
南米や熱帯で蔓延するシャーガス病を題材に、医療事故を専門に調査する厚労省患者安全委員会の一員、阿里玲の活躍を描いた医療サスペンス。
寄生虫が媒介する伝染病の恐怖を訴えたいのかな?と最初は思ったんですが、むしろ焦点が当てられているのは医療ミスを生む制度の欠陥であり、お役所仕事の融通の効かなさだったりします。
どちらかというと社会派の漫画ですね。
合理主義的な熱血漢、阿里玲が、いかにして制度や官民癒着の壁をつき破り、社会正義を貫いていくのか?が読みどころ。
旧態依然とした組織の保守性にうんざりしてる若い人なんかはひどく共感できる部分があるのでは?と思ったりもしますね。
私が感心したのは、ちゃんと下調べをして、知識なり知見を自分のものにしてから作品作りに挑んでいる形跡が見受けられること。
故に、事件の真相へと迫る展開に迫真性が生まれてくる。
そりゃないだろ、とつっこむ隙がないんですね。
片腕が義手の寄生虫研究者紐倉や、現実主義的な網野室長、無難に生きることがすべての同僚入江らのキャラクターもよく出来てる。
特に台詞回しの達者さはすぐ明日からでもシナリオライターが務まるのでは、と思えるほど。
絶対的な価値観を押し付けるわけではなく、主人公や協力者にも迷いやゆらぎがあることを提示してるのがいいんですよね。
それがちゃんと会話から読み取れるようになってる。
唯一難点を上げるとするなら、作画が割と没個性気味なことですかね。
女性向きの漫画誌を読んで育ったんだろうなあ、と思える平面的な線は、面白いんだけど印象に残らない作品、と言われてしまうかも。
ある意味、連続テレビドラマ向きの漫画だと思いますね。
作者は頭のいい人だと思います。
しかし、連作できそうなのに1巻で終わりなのか、これで駄目って、ほんと厳しいなあ、となにげにその後の発表作を調べてみたら、なんと別紙にて「インハンド」のタイトルで続編、連載されてた。
ええっ。
しかもテレビドラマ化されとるがな。
・・・・情報に疎い自分を恥じ入る次第です。
見てる人はちゃんと見てる、ってことですね。
うまくやれば「踊る大捜査線・医療版」にもなりうる素材だと思うんで、今後の活躍を期待したいですね。