イギリス/中国/アメリカ 2017
監督 マーティン・キャンベル
原作 スティーブン・レザー
娘を爆破テロで失った父親の復讐を描いたクライム・アクション。
実は父親、しょぼくれた壮年の中国人に見えて、若い頃は元アメリカ軍特殊部隊の精鋭工作員だった、ってのはこの手の映画のお約束。
なんだろ、リーアム・ニーソンの専売特許というか。
まだやるのかこのパターン、というか。
ま、今回はリーアムに変わってジャッキー・チェンが「キレたら手のつけられないオヤジ」を演じてるわけですけど。
普段、体を張ったアクションと笑いで勝負してるジャッキーが、一転してシリアスな演技に徹してるのが新鮮といえば新鮮でしたね。
すでに新宿インシデント(2009)で似たようなことをやっているとはいえ、若い人の目には「これもありかも」と映ったかもしれません。
ただ、私の感覚からすると、演技の上手い下手ではなく、佇まい、存在感がね、なんか「そぐわない」気がして仕方なかった。
なんだろうなあ、狂気を秘めた殺人機械にどうしても見えないんですよね。
非合法な手段に訴えかけている姿すら「でも本当はいい人なんでしょ?」と勘ぐってしまいそうになるというか。
長年の刷り込みによるものだとはわかってはいるんですが、古いファンの中には私と似た違和感を感じた人も結構居たんじゃないか、という気がしますね。
つくづくジャッキーは業の深いアクションスターだと思います。
なにをどう変えてみたところで、結局みんなはジャッキーにいつもの陽気さと派手なアクションしか求めてないんじゃないか?と。
それこそ老舗の和菓子店が、頑なに同じ味を守り続けることで生き長らえていくように。
だってね、この先この路線でジャッキーがやっていけるとは到底思えませんしね。
次につながる転換点たる一作ではないですよね、どう考えても。
ギリギリのラインで無差別かつ非情な殺人者ではない、と演出したことがそう思わせてるのかもしれませんが。
で、肝心な映画そのものの出来ですが、これ、予想外に緻密な仕上がりです。
おそらく過去のジャッキー出演作の中では、トップランクの完成度じゃないでしょうか。
復讐のカタルシスに拘泥し、派手なバイオレンス中心に進めていくのではなく、政治的駆け引きや、テロの背景にあるものを丁寧に拾い上げてるのがいい。
これ、香港映画に一番欠けてるものだと思うんですよ。
基本復讐劇なんですけどね、ピアース・ブロスナン演じる副大統領の策謀や過去にも焦点が当てられていて、色んな角度から楽しめるようちゃんと考えられてるんです。
ジャッキーのキャスティングに対する私見を抜きにするなら、この手のジャンルでは見ごたえある良作、と言っていいんじゃないでしょうか。
むしろジャッキー云々を抜きにして見たほうが堪能できるかもしれない。
つまるところ、ジャッキーはそのスター性がゆえ、優れた作品に恵まれてこなかったのが悲運なのでは、とちらっと思ったりしました。
先入観抜きで見ていいと思いますね、意外な収穫でした。