恐怖省

アメリカ 1944
監督 フリッツ・ラング
原作 グレアム・グリーン

なにげにバザーでケーキを貰ったばかりに、思わぬ陰謀へと巻き込まれる羽目になる男を描いたサスペンス。

舞台は第二次世界大戦下のイギリス。

主人公は療養のため、ロンドンに向かう途中。

序盤から色々と謎めいてます。

妙な占い師が登場してきたり、電車で盲目の男にケーキを奪われそうになったり。

何が起こってるのか、謎を追求しようとするとなぜか周りで人がバタバタ死んでいく。

中盤ぐらいまでの流れはテンポの良さも相まって、ぐいぐい惹きつけられるものがありましたね。

特に私が新鮮に感じたのは、偶然の空爆がいったんすべてを御破算にしてしまう序盤の展開。

戦火の悲劇をサスペンスのギミックとして使うとは、と驚かされました。

原作由来のものなのかどうなのかはわかりませんが、この生々しさはフリッツ・ラング自身がナチスから逃れて亡命した経験に裏打ちされたものなのかも、と思ったり。

戦争という非日常下における、決して幸福とは言えぬ人々の営みを、サスペンスの流儀でエンターティメント化してしまう辣腕には感心することしきり。

ナチスの空爆から逃れるために地下鉄の通路に主人公が泊まり込むシーンとかあるんですけどね、それがほのかな恋の舞台になったりもしてるんですよ。

ラングのハリウッド時代の映画はナチスを題材にしたものが多いですが、戦争ものだからといってどれもが暗く、陰鬱になるわけじゃない、というのは私にとって発見でしたね。

ナチをサスペンスの道具立てに使うことも可能なんだ、と。

1944年(昭和19年)にそういうことをやってるって事自体が驚異だったりしますけどね。

少し残念だったのは終盤の展開。

あれよあれよと真犯人が暴かれるんですが、ちょっとね、詰めが甘い。

真相がわかるや否や、前半の筋運びに無理を感じたりもして。

ヒロインの心情描写及び行動も、あまりに思い切りが良すぎて首をかしげます。

なんとなくパタパタっとまとめちゃった、みたいな。

もうちょっと長尺でもよかったですね。

86分では描ききれてない部分もあるように感じました。

面白かったんですけどね、筋運びに見合うだけのエンディングが用意されてなかった、というのが実情じゃないでしょうか。

ラングのサスペンス入門編としてはちょうどいいかもしれませんけどね。

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