アメリカ 2018
監督 クリスチャン・リヴァーズ
原作 フィリップ・リーヴ
最終戦争から数百年後の荒廃した社会を描く未来SF。
なんといっても特徴的なのは生き残った人間たちが「移動する都市」に居住し、都市が都市を食らう弱肉強食の世界に生きているという設定。
「移動する都市」というアイディア自体は、私が記憶する限りでは80年代ぐらいからあったように思うんですが、それも実際に街がキャタピラつけて荒野を進むシーンを目の当たりにすると、なまじっかな既視感なんざふっとぶ、というもの。
ハウルの動く城(2004)とかマッドマックス 怒りのデス・ロード(2015)あたりと世界観がかぶる、なんてことを言ってる人も居るみたいですが、私はスチームパンク風に作り込まれたこだわりのガジェットや、圧倒的なスケール感にノックアウトされましたね。
なんだかんだ言っても「誰もこんなの映像にしてこなかった」のは確かだと思うんですよ。
そこにさっそうと登場するのは、顔の傷を隠すためにマフラーで鼻から下を覆った美貌の女。
もしSFが、誰も見たことのないものを絵にする作業なのだとしたら、これほどそそられる絵作りはそうそうあるものじゃない、と思うわけです。
さすがはピーター・ジャクソン、もうなにもかもわかってらっしゃる、って話だ。
序盤30分ほどで、あとはどう話が転ぼうと全然構わない、という気にさせられましたね、私は。
SF好きでこの舞台設定に酔わされないやつはまず居ないだろう、と。
ただ、存外SFがお好きな方って、思ったほど観客の中には居られないみたいで。
これが興行成績惨敗するのか・・・といささか信じられない気持ちも少し。
ま、ぶっちゃけちゃうなら物語の構造的にはナウシカと非常に近いです。
特に漫画版を読んでる人はその相似性にすぐ気づくはず。
黄昏れつつある世界での主流派と反主流派の争いを軸にしたストーリーなんてそのままですし。
終盤では巨神兵かよ!ってな兵器も出てきますしね。
また、原作を120分に濃縮しようとして、拾いきれてない、フォローしきれてない部分も多々ありますし。
これはピーター・ジャクソンの詰め込み過ぎな脚本の問題、初監督をつとめたクリスチャン・リヴァーズの演出のつたなさが影響してると言わざるを得ない。
でもねえ、それをさておいても魅力的な素材だらけだと私は思うんですよね。
不死の殺戮兵器シュライクに育てられた少女とか、それだけでスピンオフが成立しちゃうレベルじゃねえかよ、って。
もう、いちいちツボをつくキャラ、筋立てを用意してきやがるんですよね。
問題はそれが上手に機能してないことだけで。
そこが一番肝心なんだ!ってか。
いや、すまん。
なんかね、中2魂が激しく燃え上がりましたね。
決して完成度は高くないですよ、でもこれをつまらん、と言っちゃうとね、じゃあ他に何があるんだよ、と思ったりもするわけです。
マーベル・ヒーローズたちもいつかは弾切れするよ?って。
ピーター・ジャクソン、なぜ監督やってくれなかった、ってところですかね。
SF映画の多様性を守る意味で、こういう作品を邪険にあつかちゃあいけない、と思うのは私が年季の入ったマニアなせいでしょうか。
理屈じゃなく好きですけどね、私は、この作品。