フランス 2017
監督、脚本 グサヴィエ・ルグラン
ストーカー丸出しな元旦那と、その家族の確執をえがいたドメスティックな人間ドラマ。
作品のテーマになっているのは離婚後共同親権。
日本だと、離婚後は単独親権になるのが普通ですが、フランスを含む欧米の場合、どんなに問題がある夫でも、親権者だからという理由で定期的に子供に会う権利が認められるらしいんですね。
それがどんな事態を巻き起こすのか?に迫ったのがこの映画だと言えるでしょう。
で、それを前知識として知らないと、上手に内容を噛み砕けなくなります。
ま、私のことなんですけどね。
冒頭、家庭裁判所が元夫婦を詰問するシーンがあるんです。
共同親権をどうするか?の判断を下すための査問でしょうね。
そこで判事が最後に独白する。
「どちらかが嘘をついている、ということね」
私はこのセリフで完全にミスリードされちゃったんですよね。
おそらく終盤で真相が暴かれて、子供がなぜ母のもとにいるのか、父親はなぜ拒絶されているのか、すべてが明らかになるんだろうな、と。
見たままを信じちゃいかんぞ、これは、絶対裏があるはずだ!と。
違った。
サスペンスでもミステリでもなかった。
見たままだった。
しかしこれを「傑作サスペンス」だとか言いくさるキャッチコピーにも腹が立つんですけどね、見終わってもしばらくの間「サスペンスとして不出来すぎる!」と憤慨してた自分も相当な馬鹿野郎でほんと腹が立つ。
気づけよ俺!
ああ、情けない。
結局この映画が訴えてることって「子供のためを思って整備された法制度が、逆に子供も家族も不幸にすることもある」という逆説なんですね。
もう一度ちゃんと考えてみませんか?という問いかけなんです。
それをきちんと読み取れてこそ、迎えたエンディングが衝撃的なのであって。
暗示的なのが18歳のお姉ちゃんの存在。
なんでわざわざ共同親権下にないお姉ちゃんのエピソードに尺を割くんだろう?と不思議だったんですが、これ、負のスパイラルをほのめかしているんじゃないか?と気づけば俄然すべてが腑に落ちる。
さりげなくこういうことがやれてしまう、ってのがすごい。
新人監督としてその力量に申し分なし。
なるほどフランスで40万人を動員したのも納得の出来栄えですね。
フランス人にとって、恐ろしく身近な問題なんだろうなあ、と知らない人間が見てても伝わってくるのが良作の証左でしょうか。
DV、ストーカーの問題をどう解決していくのか、元夫が最後に吐いたセリフが怖すぎてあれこれ考え込んでしまった一作でしたね。