ドイツ/アメリカ/カナダ 2018
監督、脚本 アンドリュー・ニコル
地球上のすべての人間が見たものを個別に記録、閲覧することが可能になった近未来の管理社会において、ANONを名乗る、特定できない人物の犯罪行為を追う刑事を描いたSFサスペンス。
とりあえず、SFで近未来で管理社会、という鉄板のプロットに新鮮味はまるでないです。
それこそアンドリュー・ニコル監督の処女作、ガタカ(1997)が似たような階級社会を近未来像として描いていたことですし、どことなく近縁種な印象も受ける。
焼き直し、ってほどじゃないですけど、ガタカをもう一度やってくれるのか!と思った人も居たんじゃないでしょうかね。
ま、私のことなんですけどね。
ただ、そこで喝采を送っちゃうと、もう冷静なレビューとか不可能なんで、そこはあえて距離をおいてですね、近視眼的にならないようにせねばな、と自分を戒めるわけですが、いや、それでもやっぱり面白いんじゃない?これ?と自制心をかなぐり捨てて訴えたくもなったりして。
やっぱり斬新だったのは、相互監視社会の行き着く果てをガジェット不在で演出したことでしょうね。
個人が生活する上で、視界に入ったものを記録するツールらしきものが一切映画には登場しないんです。
普通ならウェアラブル端末であったりとか、なにがしかの小道具が出てきそうじゃないですか。
なにもない。
登場人物の視覚そのものが、あたかもパソコンのスタートアップ画面みたいに表現されてるんです。
なので、指一本動かすことなく目線を変えるだけでデータの検索ができたり、通話ができたり、過去映像の再生ができたりする。
詳しい仕組みについては言及されてませんが、もしスマホが究極の進化を遂げるとしたら「人体への内蔵型」とすることだろう、ってのをそのまま絵にしてるんですね。
これは「近未来の管理社会」というありがちなプロットすらも忘れてしまいそうになる発想だったんじゃないか、と思うんです。
刑事の目線を追うだけで、ガンガン想像が膨らんでいくんですよね。
そりゃ過去にはスカウターみたいなのをつけた上での視界がこんな感じだったりとか、戦闘サイボーグの視野がパラメーターと数字だらけだったりとかあったと思うんですが、世界規模ですべての人間がオーガニックにネットへ接続されてて、視野を端末化し日常生活を送ってる、って映像作品じゃなかったように思うんですね。
そこにただ一人、何をやってもエラー表示のでるANONという人物が登場する。
しかもANON、他者の視界に侵入してデータを改ざんしたり、記録を消去したりと、ハッキングまがいのことすらやってのける。
これが面白くないわけがなくて。
うお、マジでSF、とあたしゃ軽く唸ったりもした。
とにかく、どのシーンを切り取っても、視界が端末化した未来世界ならではの映像表現が手抜かりなく構築されてるんです。
もう、脳内は高速フル回転ですよ。
えーと、視線だけですべてが操作できるということは、記憶と記録が別で、どこかにホストがあって、個人にパスワードがかってるってことで、云々。
イマジネーションを揺さぶりまくられた100分でしたね。
まあ、ぶっちゃけね、エンディングはちょっと弱いかな、と思います。
最後にもうちょっと盛り上げてくれたら、と思わなくはない。
けれどここまで見たことのない世界を可視化してくれたら私は十分満足ですね。
アンドリュー・ニコルのSFへの造詣の深さが滲み出た一作じゃないでしょうか。
SF好きに、是非オススメしたいですね。