イギリス/ドイツ 2013
監督、脚本 ウェス・アンダーソン
高級ホテルのカリスマ・コンシェルジュと若きベル・ボーイの永きにわたる交流を描いたコメディタッチの大河ドラマ。
舞台はヨーロッパ大陸の東端にあるという仮想の国、ズブロフカ共和国。
ストーリーは、遡ること1932年から現在までを、作家の回想でつなぐという形がとられていて、 100分の映画とは思えぬヴォリュームです。
豪華キャストの出演が話題になったりもしましたが、役者のネームバリューに頼らなくてもまるで問題ないレベルでよく出来た作品でしたね。
コンシェルジュとベルボーイのやりとりを見てるだけでくすくす笑いが漏れてきます。
シナリオ展開もいい意味で映画的で。
マダムにモテモテのコンシェルジュが遺産相続に絡んだことで、命を狙われ、挙げ句に収監、やがて逃げだしたはいいものの、時代は戦争へとまっしぐら、って、どんだけ激動の人生なんだよ!って話なわけで。
そこにベルボーイのほのかなラブロマンスなんぞも添えられて、最後まで全く飽きさせることなし。
語弊があるかもしれませんが、どこかスラップスティックな無声映画を見てるような質感があるんですよね。
チャップリンとかキートンとか。
レイフ・ファインズがめちゃくちゃ体張ってる、ってわけじゃないんですけど、純然たる悪意ですら笑いに変えてやろうとする、物事の割り切り方、処理工程のシンプルさが悲劇を悲劇として沈痛に感じさせないんです。
すべてを肯定してるかのような安心感があるんですよね。
それが性善性に基づくものなのかどうかはわかりませんが、なんといいますか、ウェス・アンダーソンも50歳にして老成したなあ、って感じですね。
独特な屈折したユーモアでならした人が、たどり着いた境地は「回帰すること」だったか、と思うと興味深い。
ま、そう思ってるのは私だけかもしれませんが、これまでのどの過去作より広く一般に受け入れられる「馴染みやすさ」があることは間違いないでしょう。
ただ、いささか回りくどいかな、と思ったのは「ある作家の本を読んだ女性が知り得た事実は、作家がベル・ボーイから直接聞いた話が元であった」とする物語の二重構造でして。
最後に「シュテファン・ツヴァイクの著作にインスパイアされた」とのテロップが流れることから推考するなら、きっと必要な骨組みだったんでしょうけどね。
普通にベル・ボーイの回想で良かったんじゃ・・とも思うんですが、作家を噛ませることで、ツヴァイクにも意識を向けてほしかったのかもしれない。
調べてみたらシュテファン・ツヴァイク、ユダヤ人の反戦主義者として時代に翻弄され苦労した人らしいですから。
作中で反戦が声高に叫ばれることはありませんが、その理不尽さは描かれており、実は裏テーマのスパイスとして機能させたかったのかもしれませんね。
アンダーソン、風変わりなコメディを得意とする監督から、安定の良作を連発する大監督に化けてきたような気もします。
おすすめですね。