イカリエ-XB1

チェコスロバキア 1963
監督 インドゥジヒ・ポラーク
原作 スタニスワフ・レム

イカリエ-XB1

未知なる生命の探索を目的に、15年の歳月をかけてアルファ・ケンタウリ星系へと旅立つ40人の宇宙船乗組員を描いたSF大作。

なんといっても驚きなのは、この手の宇宙SFが当時まだ社会主義国だったチェコスロバキアで制作された、という点でしょうね。

「スタートレック」や「2001年宇宙の旅」より早かった先駆的作品、との触れ込みですが、そんな前例のない時代に、SF映画なんて代物へよくまあ資金を提供する人物が居たものだな、と思いますね。

こと映像作品の分野においては「空想冒険活劇」みたいな扱いだったと思うんですよ、当時のSFって。

どっちかというと子供だましみたいな一般認識。

それを「可能性を思索する想像力のドラマである」みたいなポジションに押し上げたのが後年の「2001年宇宙の旅」だったと思うんで。

なんせSFはセットひとつ組むだけで相応の予算が飛んでいきますから。

ましてや宇宙SF。

CGが存在しない時代ですし、宇宙空間を航行する宇宙船の絵を撮ろうと思うだけで数々の特殊撮影の技術、資材が必要になってくる。

間違いなく普通の映画撮るより資金が必要でしょうしね。

なんだろ、国家が予算捻出してたんでしょうかね?

というのも、ほぼ同時期にソビエトで火を噴く惑星(1962)というSF映画が発表されてるから、なんですけどね。

この映画は金星探検の物語ですんで同じSFでも若干毛色が違いますが、こぞって社会主義国が早い時期に宇宙を題材にしたSF映画を世に送り出してることを鑑みるなら、現実社会での宇宙開発への機運の高まりがなんらかの影響を及ぼしてる、なんてこともあったのかもしれません。

アメリカに遅れを取るものか、みたいな。

いや、詳しくは知らないんですけどね。

で、肝心の内容なんですが、流石に小道具や宇宙船の造形、特撮に古さを感じさせはするものの、想像してた以上にしっかりしてます。

「地球はもうないんだ!」と絶叫する男のシーンで幕を開けるオープニングなんざ、何事か?!と一気に作品世界へと引き込まれるインパクトがありましたし。

なんせ共産圏の映画だし、タルコフスキーの映画みたいに長回しで冗長なのでは?という警戒もあったんですが、以外にもテンポよく、さくさくストーリーも進んでいきますしね。

ま、他愛ないといえば他愛ない物語ではあるんです。

格別なにか大きなドラマが編み込まれてるわけじゃない。

けれどお手本になるものがなにもなかった時代に、未知なる生命の探索という壮大なテーマを最終的に達成感で染め上げたエンディングは、今見てもまるで色褪せない希望に満ちていたように私は思うんですね。

理解の外側にある不安や焦燥を、まるごとひっくり返し解放する、オチへの誘導の仕方も巧み。

なにより、なにもかもあからさまにするのではなく、想像の余地をきちんと残してる演出がいい。

ただ早かった、ってだけじゃなく、映画史において先駆的で重要と言われるのも納得の1作ですね。

キューブリックは絶対にこの映画を見てたはずだ!と誰かが言ってましたが、確かにそうかもな、と思える部分があることにも少なからず驚きでした。

SF好きなら抑えておいて損はない作品ではないでしょうか。

余談ですが、禁断の惑星(1956)にでてくるロビーそっくりなロボットが登場してて微笑ましいです。

それを劇中で「過去の遺物」って言ってるのがまたなんとも。

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