フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法

アメリカ 2017
監督 ショーン・ベイカー
脚本 ショーン・ベイカー、クリス・バーゴッチ

フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法

ディスニーワールドのすぐそばにある安モーテルで暮らす母と子を描いた家族ドラマ。

さて、本作の主人公である母娘ですが、いわゆる母子家庭であり、元旦那、親族から援助を受けている様子はありません。

母親はウェイトレスをやって生活費を稼いでいるんですが、真面目に働いていても幼い子を抱えた状態ではその日を暮らすのが精一杯。

若さゆえの不用意さもあるんでしょうが、母親はやや素行不良な面もあり、それがさらに生活を圧迫している様子。

かといって行政がなにかしてくれるわけでもなく、物語が進むにつれ二人の生活は困窮の度合いを深めていきます。

背景にあるのは、世界でもトップクラスに貧困率が高い大国アメリカの現実。

真っ当に働けども一向に生活が楽にならない、理不尽な格差社会の闇。

そんなの自己責任じゃん、という人もきっと日本には多いんでしょうけど、アメリカの莫大な富の半分以上をたった数百人が牛耳ってる事実を知った上で言ってますか?それ?と私は逆に問いたいわけで。

富裕層の税負担を軽減せず、ほんの少しでも福祉に公的資金を回してくれたらこの映画のような親子は簡単に救えるんですよね。

まったくもって「隣の家の出来事」じゃありません。

ネカフェ難民が増大し続け、非正規雇用者が企業において常態化している日本も近い将来、こんな光景は当たり前になる。

いやもう、なってるのかな。

この作品が強烈だったのは、そんな「社会から見捨てられた貧困家庭」をディズニーワールドという夢の国のすぐそばで展開してみせたこと。

バカ高い入場料を支払って遊び呆ける人たちの真隣で、子供に好きなものを食べさせることもできない若い母親が来週分のモーテルの宿泊費で頭を悩ませてる。

なんの罰なんだよ、これ・・・って話ですよね。

しかもこのモーテル、現実に存在する、ってんだから恐れ入る。

ま、母娘が絶対的に間違ってないとは言いません。

そんな境遇に陥らない選択肢もきっとどこかにあったはずですから。

けどね、過ちなり失敗を犯したことを認めて再び這い上がろうとする者に、なんら援助を差し伸べる手段がない、って、機能不全社会じゃねえかよ、と私は思うんですよね。

だって子供にはなんの罪もないわけですから。

エンディング、ある程度予想はついてましたが、そのコントラストの激しさに目眩がしてくるほどです。

さんざめく観光客に対比させるものとして、これ以上のインパクトはないんじゃないかと思う。

見て損はない一作だと思いますね。

てか、知っておいたほうがいい。

救えない苦渋を胸に秘めながら、ぶっきらぼうに振る舞うモーテルの管理人を演じたウィレム・デフォーの演技も必見。

この内容で決して暗くなりすぎす、小さな温かみをも伴って作品を演出した監督の手腕も素晴らしい。

しかしタンジェリン(2015)からこういう方向へコマを進めてくるとはなあ・・・侮れないなあ、ショーン・ベイカー。

みなさんおっしゃってますがカメラの位置がおおむね子供目線なのも注目すべき点だと思います。

はたして主人公の子供の目にディズニーワールドはどう映ったのか?

ちょっと想像してみただけでひどく切なくなる私です。

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