オーストラリア 2013
監督、脚本 アイヴァン・セン
少女殺害の犯人を追うアボリジニ出身の刑事を描いたサスペンス。
さてアボリジニというとオーストラリア大陸の先住民なわけですが、殺害された少女もアボリジニ、捜査官も同様、となると、なにか人種差別的な社会問題を孕む作品なのかな?と私は考えたりもしたんですが、別段なにかを啓発したい様子はなし。
むしろ主眼が置かれているのは寡黙でハードボイルドな主人公警官の、難航する捜査模様であったり、その人生ドラマ。
物語は刑事の目線を通して恐ろしく淡々と進んでいきます。
地味といえば凄まじく地味。
なんせ主人公ジェイ、口数が少ないだけでなく喜怒哀楽にも乏しくて、基本ずっと仏頂面。
それでいて物語に説明は一切なく、すべては絵で見せます、といったスタイル。
振り落とされる人は数十分で振り落とされてあっという間に夢の中、でしょうね。
個人的にはこの手の映画、嫌いじゃないし、あえて説明しないことがかえって多くを伝える場合もある、と思ってるクチなんですが、それもねー、やはり内容によりけりかな?と若干感じたりはしましたね。
「行間の感情」を表現するには必要最小限であることがうってつけかもしれませんが、ことサスペンスにおけるスリル、謎解きの快楽、という話になると、あまりにメリハリなく単調すぎるような気もしてくるんですよね。
いや、この作品はサスペンスじゃなくてノワールだよ!とお叱りを受けるかもしれませんが、ノワールならノワールで主役にもっと強烈な個性が欲しい。
受ける印象は人それぞれなんでしょうけど主演のアーロン・ペダーセン、私には髭面のむさ苦しい愛想なしなオッサン、としか映らなかったんですよね。
下手、ってわけじゃないんです。
決して彼がミスキャストだとは思いませんが、なんだろ、主演を張るほどの器じゃないとでもいうか。
どこかカウボーイ風の衣装を見ていて私はイーストウッドのマンハッタン無宿(1968)あたりを思い出したんですが、傑作というわけでもないのに、キャラと言う意味でははるかにイーストウッドの方がサマになってるんですよね。
そりゃ天下のイーストウッドと比べちゃいかんよ!って言われそうですが、映画の出来栄えを出演者が中途半端にしてる、となるとそこはちょっと無視できないですし。
好みの問題なのかもしれませんけどね、私の感覚では共演者の ヒューゴ・ウィーヴィング のほうがよっぽど気を吐いてたように思えた。
監督、脚本のみならず、たった一人で撮影から音楽(ほとんど使われてないけど)までこなしたアイヴァン・センの映像作家たる才気は半端なものじゃない、と思いますし、実質クオリティは高い、と感じたんですが、なんかぱっとしない、というのはどうしても付きまとうかもしれませんね。
オーストラリア本国では人気が沸騰し、2が制作されたばかりかミニテレビドラマシリーズまで放映されたらしいんで、私の感想はひょっとしたら他国人ゆえのズレなのかもしれませんが。
お好きな人はストン、とお気に入りになりそうではあるんですけどね。
アボリジニ出身の刑事である、という特異性をもう少しわかりやすく活かしてくれてたらなあ、と思ったりもしました。