コースト・ガード

韓国 2001
監督、脚本 キム・ギドク

民間人を誤って射殺してしまった兵士の転落を描いた一作。

まず、私が興味深かったのは南北軍事境界線を守る兵士が、地域住民からどういう目で見られているのか、という点でしょうか。

やっぱり日本で暮らしてると、北朝鮮と韓国の国境沿いなんて物々しい雰囲気でみんなピリピリしまくってるんだろうなあ、などと想像しがちだと思うんですが、実はそうでもない、ってのがかなり意外でしたね。

物語は軍事境界線に近い海岸沿い、という舞台設定ですんで、地続きな場所はまた違うのかもしれませんが、なんだかね、警備する兵士の側にあんまり緊張感がないんです。

どこかルーティーンワークと化しちゃってる、というか。

多少不審なことがあっても、これほんとに発砲しちゃっていいの?と戸惑う空気が蔓延してるというか。

で、近隣の住人はそんな兵士たちをあんまり快く思ってない。

無駄に税金を消費するお飾りに近い連中、と蔑んでる節があるんですね。

どうせお前ら有事の際にも大して役にたたねえんだろ?みたいな。

だから平気で境界線の外側に侵入したりする。

観光客なんて、兵士に写真撮ってくれない?とお願いしたりする始末。

ああ、これが南北分断から70年近くを経過した朝鮮半島の現実なんだなあ、と。

ストーリーはそんな形だけの分断状態の間隙を突くように、主人公カン上等兵に闇夜の発砲を決断させます。

銃撃したのは同胞である韓国人の男性。

海岸で彼女といちゃついてるところを「スパイだ!」と勘違いされちゃったんですね。

軍法上は主人公に罪を問いません。

むしろ職務に忠実だ、と表彰されたりする。

ところが残された女と関係者が黙っちゃいない。

「人殺しだ!」と弾劾するわけですね。

まあほんとギドクらしい重いテーマだと思います。

そりゃもちろん軍事境界線に侵入した住人が悪いんでしょうけどね、有名無実化しているのも実際ですし、どちらに絶対的な非があるのか、断じきれない部分はどうしたってありますよね。

問いかけられているのは、韓国人を射殺することで悲しむ者が存在するのと同じように、北朝鮮人にも肉親は存在するのだ、といった普遍的な人命の尊さについてでしょうか。

そういう意味では典型的な反戦映画かもしれません。

仰天の展開やとんでもない落とし所が用意されてるわけでもありませんし。

その傾向は特に後半において顕著で。

割とわかりやすい混乱を重ねて、やっぱりそうきたか、みたいなオチなんですよね。

そこに序盤ほどの独自色はない。

一言だけ言わせてもらうなら、人間ってそう簡単に狂わないよ、といったところですかね。

らしい作品ですが、らしい毒はなかったように思います。

見応えがなかったわけじゃないんですが、導入部からどうシナリオを変遷させていくか?がいささか凡庸だったか、と。

ギドクには同じテーマでもう一度切り口を変えてチャレンジしてもらいたいところ。

隣国の現実を知る上で、見て損はなかったと思いはするんですけどね。

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