イギリス/アメリカ 2017
監督、脚本 マーティン・マクドナー
娘を暴漢に惨殺された母親が、警察の怠慢を告発する路上広告を立てたことに端を発する「町ぐるみの騒動」を描いた人間ドラマ。
ものすごくシナリオ練られてる、と思います。
私がなんとも巧みだと思ったのは、犯人を除くなら、警察も含めて誰一人として真に悪人だと思える人物が登場してこないこと。
母親には母親の正義があって、やりきれない気持ちがあって、警察には警察側の事情があって、内幕がある。
そこに誰もが「間違ってる」と全否定できるだけの材料は見当たらないんですよね。
観客は、母親の気持ちもわかるし、警察官の気持ちもわかる、というなんとも座りの悪い状況に追いやられることになる。
主題となっているのは「どうにもならないこと」なんです。
降って湧いたような不条理であり、悪夢、と言い換えてもいい。
それをどう乗り越えていくべきなのか?を、ああでもない、こうでもない、と試行錯誤しながら迷走し続ける人々を追った内容、と言っていいでしょう。
特筆すべきは事件を閉塞的な南部の田舎町を舞台として繰り広げた点でしょうね。
ただでさえ面倒な事態なのに、そこに黒人差別であったり、警察署長ですら顔見知りという村社会特有のややこしさが絡んでくる。
何をどうすることが正解なのかが全く見えてこないだけに、先の読めない緊張感が最後まで途切れなかったことだけは確かですね。
なんせ田舎町なんでね、厳密に「法」ですべて解決というわけに行かないんですよ。
法よりも重視されるのは地域性であったり、地元のつながりだったりする。
印象的だったのはそこに、母親にとって唯一の味方となる小男を登場させたこと。
小男のレストランでのセリフが実は核心だったのでは、と私は後から思ったりしましたね。
そして迎えたエンディング、ある意味で衝撃的なオチだったりします。
最後に横たわるのは、どうにもならないことをどうにもならない、と忘れてしまうことの出来ない人の業。
不良警官ディクソンの変節がいささか都合良すぎるような気もしなくはないんですけど、色んなことを考えさせられる濃厚な一作だと私は思いましたね。
どこかポール・ハギス監督のクラッシュ(2004)にも似た質感があります。
実は人の性善性を信じる物語だ、というのはいささか穿ちすぎた意見でしょうか。