ザ・ワールド・イズ・マイン

1997年初出 新井英樹
小学館ヤングサンデーコミックス 全14巻

一部で熱狂的人気を誇る作品。

殺人に対する禁忌が存在しない主人公モンの気ままな殺戮道中と、謎の巨大生物ヒグマドンに町を蹂躙される悪夢を描いたディザスターもの的狂乱劇を掛け合わせたような内容なんですが、全体を通じて作者が問いかけているのは「命とはなにか」みたいな哲学的命題。

爛熟した社会の外側でうごめくアンチモラルな殺人者や、怪獣に踏み潰される人、怪獣そのもの、政治家、警察官の視点を借りてそれを考察しようとするかのようなシリーズだった、と私は思うんですね。

遠慮呵責なくあけすけに、目を背けたくなるような残酷さ血生臭さで、物語は答えの見いだせないままもがき苦しみぬきますが、まあ、真正面から向き合うのはものすごく体力を必要としますし、とかく疲れます。

キャラクターを立たせることに腐心し、エンターティメント的要素を随所に散りばめることで、なんとかギリギリのラインで商業漫画的であろうとしているのはわかるんですけどね、やはりどうしたって思想が前面に押し出ちゃってるから。

語りたいことが各エピソードの外側に溢れたおしてるんで、それを汲み取るだけで単純にしんどい、ってのはある。

なんかもう、文学なのかよ、って感じなんですね。

で、最大の難点は、伝えたいことを伝えるために世界を根底からぶっ壊してたはずなのに、結果なにも残らなかった、って点だと思うんですよ。

私に言わせるなら主人公モンの出自とかどうでもよくて。

それよりもヒグマドンの存在や猟師、マリアを物語の帰着点に落とし込む形で「点」を「線」としてやらなきゃならない。

全部バラバラなまま、最後にやつだけが残った、って言われてもね、はあ、そうですか、としか言いようがない。

シンプルに言うなら、まとめきれてない。

ただね、この作品にひどく傾倒する人が一定数いるのはわからなくもないんです。

みんな面倒臭すぎてまずやらないことを、膨大な資料と裏とりでもって至極真摯に、徹底して本気で取り組んでるのは確かだと思いますし。

その情熱には素直に頭がさがる。

けれどやっぱりこの漫画って、青年の煩悶なんですよね。

大人の開き直りや達観、諦念はどこにも存在しないんです。

だから一つ上のステージから全体を統括、俯瞰できてない。

近年、エンターブレインから「真説」と題して新装版が全5巻で発売されてますんで、私の読んだオリジナル版とはまた違うストーリーが新たに呈示されてるのかもしれませんが、正直私はもういいかな、って感じですね。

今、こんな漫画は誰もやれないだろうなあ、と思うんですけどね、私が求める物語の高みって、これじゃないんですよね。

カルト的大作、と呼ぶのがふさわしい気もします。

よくまあヤングサンデーはこんな漫画の長期連載を許したことよなあ。

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